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製造業グローバル展開の歴史を振り返る アジア各国、中国が力をつけるまで

産業用ロボットの技術と市場の航跡 #6 グローバル化する製造業とロボット需要の変化

1980年代までの世界の製造業は、日欧米の先進工業国を中心として、輸出による国際競争を展開してきました。1990年代から、先進工業国は新興工業国における海外生産を展開し始め、2000年代になると、先進工業国の海外生産が本格化すると同時に、新興工業国でも地場の製造業が活性化され内需の拡大も始まり、いよいよ世界の工業圏のグローバル化が明確になってきました。

2000年代初頭の世界の製造業の構図は、2001年のゴールドマン・サックス社のレポートで示されたBRICs(Brazil、Russia、India、China)が多くを物語っています。当時は経済発展が大きな4ヶ国として挙げられましたが、まもなく中国とインドは経済拡大が加速し、ブラジルとロシアは減速するという大きな差が表れたため、新興経済圏の総称としてはあまり使われなくなりました。アメリカ大陸では米国から南へ、欧州では西欧から東へというように、先進経済圏から他の地域への経済波及として捉えれば、「ブラジル」と「ロシア」は、2000年代のこの流れを象徴的に示した表現と解釈すればよいでしょう。実際に2000年代から、米国の製造拠点が国内からメキシコに展開を始め、ドイツの製造拠点が国内からチェコやポーランドなど東に展開するような動きが活発になっています。

アジア圏では、インドと中国はその後も世界での存在感を高め続けています。アメリカ大陸や欧州とは異なり、日本経済がアジア他国に波及していったというよりは、全世界から注目され新たに経済圏が生まれたとみるべきでしょう。アジア圏においては、中国、インド、その他の東アジア諸国は、それぞれ異なる経緯で経済成長を始めています。

アジア製造業の発展経緯

最初に新興工業国として発展を始めたのは東アジア諸国で、香港、シンガポール、韓国、台湾の4ヶ国でした。1970年代からNICs1(Newly Industrializing Countries)と称され、存在感を示し始めました。シンガポール、韓国、台湾は、1980年代から1990年代にかけて、ともに半導体や電気電子機器系の産業を中心に経済成長を遂げています。さらに、シンガポールは化学、医療関連を含む先端技術製造業、韓国は自動車産業強化により鉄鋼などの素材産業までを含む機械製造業、台湾は液晶・半導体のクリーン製造といったように、それぞれ特徴的な産業構造で経済成長が始まっています。一方、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンの1990年代は、先進諸国の海外生産拠点として製造業が強化され始めました。

ところが、1997年に、海外からの投資に大きく依存して経済成長が進んでいたタイで、アメリカ機関投資家が投機的資金を引き揚げたことをきっかけとして、バーツが暴落するアジア通貨危機が発生しました。通貨危機は、同じく海外からの投資に過剰に依存していたインドネシア、韓国が大きな影響を受け、シンガポール、マレーシア、フィリピン、香港にも少なからず影響が及びました。そのため、1990年代末のアジア経済は多少混乱が続きましたが、これを機に各国では、それぞれの国状に応じて、自国の実力に合わせた経済強化とバランスの良い海外投資を求める経済政策に転換しました。このような流れにより、2000年代からアジア経済圏の実体経済の成長が始まり、アジア各国の製造業が実力をつけてきました。

中国は1977年の文化大革命終結後、1980年代から1990年代にかけて改革開放政策を中心とした中国独自の市場経済政策を進めることにより、国内経済の基盤強化をはかってきました。2001年に念願のWTO加盟を果たしてからは、製造業を中心として爆発的な経済発展を遂げ、一気に「世界の工場」とまで言われるような製造業立国となりました。中国のロボット需要は2000年代半ばから自動車、電機電子産業の先進的なユーザによる導入に始まり、2010年代に入ってから爆発的に拡大します。中国の製造業の発展経緯とロボット需要の急拡大については後ほど、改めて解説します。

インドでは製造業より先にサービス業、IT産業を中心とした経済成長から始まっている点が、中国やその他の東アジア諸国と異なる発展経緯となりました。インド政府は健全な経済成長のための産業構造バランスの面から、2010年代にあらためて製造業の振興政策を打ち出しています。2000年代の産業用ロボットのインド需要は年間1000台未満ですが、2010年代後半から本格的な需要が見えてきます。

アジア各国のロボット需要

産業用ロボットの海外需要拡大の背景には、日系企業の海外生産拠点における自動化需要と、海外各国の製造業の成長に応じた自動化需要があります。アジア需要の多くは日本企業の海外生産展開の影響を大きく受けています。

日本の製造業の海外生産は、1990年前後には20兆円規模でしたが、バブル経済崩壊後から拡大をはじめ、2000年には52兆円に達しています。当時の日本の国内製造業の生産総額は321兆円ですので、日本の製造企業が国内外に保有する総生産能力373兆円のうち約14%を海外で生産する構造になっています。

図1 国内製造業と海外日本法人の生産規模比較(データ出典:国民経済計算(内閣府)、 海外事業活動基本調査(経産省))

2000年代の海外生産の70%が自動車と電機電子産業です。海外生産の目的は一様ではありませんが、自動車産業は現地向け製品の地産地消型生産、電機電子産業は価格競争力強化をそれぞれ主たる目的とする傾向があるようです。もともと、自動車産業と電機電子産業は、産業用ロボットの圧倒的な主要ユーザですので、ロボットの海外需要に直結しています。また日本企業の海外生産対応のロボット需要の場合は、国内で自動化設備として完成させ、現地に出荷するケースも多く含まれますので、1990年代以降の国内向け出荷台数の中には、間接輸出でアジアの新興工業国向けに出荷されるものが少なからず含まれていると推定されます。
(「産業用ロボット全史」p.117-120)

<販売サイト>
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<書籍紹介>
日本は産業用ロボット生産台数で、世界シェアの半分を占めています。一大産業となった産業用ロボットはどんな技術に支えられ、どのような変化を遂げるのか。長年、産業用ロボットの現場にいた著者がロボットの要素技術から自動化までを解説します。
書名:産業用ロボット全史
著者名:小平紀生
判型:A5判
総頁数:256頁
税込み価格:3,300円

<編著者>
小平紀生 (こだいら のりお)
1975年東京工業大学工学部機械物理工学科卒業、三菱電機株式会社に入社。1978年に産業用ロボットの開発に着手して以来、同社の研究所、稲沢製作所、名古屋製作所で産業用ロボットビジネスに従事。2007年に本社主管技師長。2013年に主席技監。2022年に70 歳で退職。
日本ロボット工業会では、長年システムエンジニアリング部会長、ロボット技術検討部会長を歴任後、現在は日本ロボット工業会から独立した日本ロボットシステムインテグレータ協会参与。日本ロボット学会では2013年〜2014年に第16代会長に就任し、現在は名誉会長。

<目次(一部抜粋)>
序章  産業用ロボットの市場と生産財としての特徴
第1章 産業用ロボットの黎明期
第2章 生産機械として完成度を高める産業用ロボット
第3章 生産システムの構成要素としての価値向上
第4章 ロボット産業を取り巻く日本の製造業の姿
終章  ロボット産業の今後の発展のために

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2023年11月29日から12月2日までの4日間、東京ビッグサイトで「2023国際ロボット展」が行われます。産業用ロボット、サービスロボット、ロボット関連ソフトウェア、要素部品などが出展され、国内外から多数の来場者が集まります。イベントに関連して、日刊工業新聞社が発行した「産業用ロボット全史」より一部を抜粋し、掲載します。

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