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安川電機、ファナック、川崎重工業…産業用ロボット“普及元年”に注目された技術

産業用ロボットの技術と市場の航跡 #3 約50年前のロボット展で目立った展示とは

日本産業用ロボット工業会の機関誌「ロボット」の1980年7月号では、当時の工業会長の巻頭言に「産業用ロボット“普及元年”を迎えて」というタイトルがつけられています。この年のロボット出荷台数はおよそ4500台で、現在の1/50ほどのささやかな規模であるものの、生産の道具としての電動型ロボットが製造現場に普及拡大する息吹を確実に感じたのだと思います。まずは、ロボット普及元年の前後に起きた市場や技術の様子について解説します。

ロボット工業会と日刊工業新聞社の共催による国際ロボット展は、ロボット工業会設立からロボット普及元年までの間に3度開催されています。1974年に26 社、1977年に40 社、1979年に30 社が出展しました。1974年の展示会は固定シーケンスの専用機や部品の展示がほとんどでしたが、1977年の展示会ではマイクロプロセッサを搭載した国産の多自由度ロボットの展示が目立ち始めます。この時点では、まだ販売実績に結び付いていない試作レベルの製品がほとんどでしたが、1979年の展示会では、販売実績が上がり始めた外販製品が並びました。

1979年の国際ロボット展に合わせた、新聞の広告特集(1979年10月19日)(日刊工業新聞社提供)

1979年の産業用ロボット展では、ロボット普及元年前夜にふさわしく、その後日本の産業の発展に寄与する製品も展示されました。塗装用途と溶接用途のロボットは複数のロボットメーカによる競演になりました。塗装は、不二越、三菱重工、トキコ(現在は日立製作所に吸収)、神戸製鋼所、日立製作所など、溶接は安川電機、新明和工業、東芝精機(現在は芝浦メカトロニクス)などが出展しました。塗装用途や溶接用途のロボットが注目されたのは、塗装はロボットとスプレーガン、溶接はロボットと溶接機というシンプルな組み合わせであったためです。組み立て用途のロボットなどと異なり周辺のシステムエンジニアリング負荷が小さく、ロボットメーカが単独で取り組みやすいということが背景にありました。

アーク溶接用途のロボットでは、その後自動車のアーク溶接用途開拓に貢献した電動型垂直関節型5軸のMotoman-L10が登場しています。
 1977年の初号機納入を皮切りとして自動車メーカを中心に採用が促進されたようで、1979年のロボット展会場でようやく有用性が認められ販売台数が伸び始めたというコメントが残っています。
 ファナック(当時の社名は富士通ファナック)電動型円筒座標5軸のFANUC ROBOT MODEL1による加工機械へのワーク供給をシステムで展示しています。これは同社の初期の製品で、その後GMと合弁会社を設立するきっかけとなりました。

Motoman-L10(安川電機提供)
FANUC ROBOT MODEL1(FANUC提供)

組み立て用途のロボットではユニメーションと技術提携していた川崎重工業の「PUMA」が出展されています。PUMAはユニメーション社が1977年に開発した、可搬質量2.5kgの垂直関節型6軸のロボットです。これはGMの生産技術研究所から要求をうけ、その仕様を満足する組立用ロボットとして開発されました。初期のPUMAは産業用ロボットとしては非力であったため広く普及するには至らなかったものの、その後の垂直関節型の小型組立ロボットの参考となる多くの要素を備えていました。
 PUMAがその後のロボット業界に影響を与えた技術要素はロボット言語VAL(Variable Assembly Language)です。ロボットに動作を指示する方法は、1970年代までのロボットではティーチングプレイバック方式が主流でした。しかしPUMAはロボット言語によるプログラムベースの本格的な産業用ロボットの姿を見せてくれました。

川崎PUMA(川崎重工業提供)

ティーチングプレイバックは、文字通り教示した動作をそのまま繰り返すという方式です。塗装やアーク溶接のように、動作経路が重要視される用途とは比較的相性が良いのですが、組み立てなどの作業順序をシーケンス制御する場合や外部センサの入力に応じた作業などには向きません。プログラムベースのロボットを実現するためには、テキストや特殊なステートメントで書かれたプログラムからロボットの動作コードを作り出し、実行させるような機能が必要です。マイクロプロセッサの実用化により、これが可能になりました。
(「産業用ロボット全史」p.34-38)

<販売サイト>
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Rakutenブックス
Nikkan BookStore

<書籍紹介>
日本は産業用ロボット生産台数で、世界シェアの半分を占めています。一大産業となった産業用ロボットはどんな技術に支えられ、どのような変化を遂げるのか。長年、産業用ロボットの現場にいた著者がロボットの要素技術から自動化までを解説します。
書名:産業用ロボット全史
著者名:小平紀生
判型:A5判
総頁数:256頁
税込み価格:3,300円

<編著者>
小平紀生 (こだいら のりお)
1975年東京工業大学工学部機械物理工学科卒業、三菱電機株式会社に入社。1978年に産業用ロボットの開発に着手して以来、同社の研究所、稲沢製作所、名古屋製作所で産業用ロボットビジネスに従事。2007年に本社主管技師長。2013年に主席技監。2022年に70 歳で退職。
日本ロボット工業会では、長年システムエンジニアリング部会長、ロボット技術検討部会長を歴任後、現在は日本ロボット工業会から独立した日本ロボットシステムインテグレータ協会参与。日本ロボット学会では2013年〜2014年に第16代会長に就任し、現在は名誉会長。

<目次(一部抜粋)>
序章  産業用ロボットの市場と生産財としての特徴
第1章 産業用ロボットの黎明期
第2章 生産機械として完成度を高める産業用ロボット
第3章 生産システムの構成要素としての価値向上
第4章 ロボット産業を取り巻く日本の製造業の姿
終章  ロボット産業の今後の発展のために

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産業用ロボットの技術と市場の航跡
産業用ロボットの技術と市場の航跡
2023年11月29日から12月2日までの4日間、東京ビッグサイトで「2023国際ロボット展」が行われます。産業用ロボット、サービスロボット、ロボット関連ソフトウェア、要素部品などが出展され、国内外から多数の来場者が集まります。イベントに関連して、日刊工業新聞社が発行した「産業用ロボット全史」より一部を抜粋し、掲載します。

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