船舶用の水素エンジン実用化へ、三井E&Sが完工した実証設備の全容
燃焼の大容量化を視野に
三井E&Sは水素燃料の船舶用エンジンの実用化に向け、玉野工場(岡山県玉野市)に毎時1000ノルマル立方メートルの水素ガスを供給できる実証設備を完工した。2023年内にテスト用エンジンに水素を供給する燃焼実証を始める。24年3月末まで行い、燃焼技術や知見を得る。新燃料の中でも少ない化学反応で製造でき、低コスト化が可能な水素を有望な燃料と位置付け、将来の水素エンジンの市場投入につなげる。
三井E&Sは主力製品の船舶用エンジンで国内シェア首位。エンジンの燃料転換に向け、水素などの新燃料の研究開発を進めている。
新設備での実証は国土交通省の補助事業で実施する。液化水素を蒸発器でガス化し、まず往復動圧縮機、次にエンジン用昇圧機により35メガパスカル(メガは100万)まで圧力を高める。出力7120キロワットのテスト用エンジンのシリンダー4本のうち1本に水素を供給し、燃焼する。
往復動圧縮機とエンジン用昇圧機は、水素ステーション圧縮機などを手がける子会社の加地テックが製作した。
水素は燃焼速度が天然ガスの主成分のメタンの約6倍速いため、燃焼のコントロールが難しいことに対応する。課題である燃焼時の水素漏えいはセンサーで監視。燃焼サイクルごとのシリンダーの挙動が許容範囲内で安定するかも確認する。
実証後も研究開発を続け、燃焼量の大容量化を視野に入れる。具体的には今後詰めるが、水素を供給するシリンダーの本数を増やし、最終的には4本すべてに供給して実証することを検討する。
海事産業は国際海事機関(IMO)の脱炭素の新目標への対応が求められており、水素エンジンは対応手段に期待される。時期は未定だが、水素インフラが整備されるころの市場投入を目指す。
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日刊工業新聞 2023年10月23日