「粗鋼生産」9000万トン割れに下方修正…需要環境厳しい鋼材、中国勢の影響度
2年連続の9000万トン割れも、前年度比微増を目指す―。日本鉄鋼連盟の北野嘉久会長(JFEスチール社長)は、2023年度の国内粗鋼生産が9000万トンを割り込む見通しを示した。「9000万―9500万トン」との当初予想を下方修正し、鋼材の需要環境は自動車向けを除き「厳しい」状況だ。鉄鋼大手は余剰生産能力削減で「量より質」を重視するが、東南アジアなどの市況に影響を及ぼす中国勢の動向に警戒感を強めている。(編集委員・山中久仁昭)
23年度の国内粗鋼生産の注目点は、22年度の約8784万トンをどこまで上回るかだ。12日には経済産業省が23年度第3四半期(10―12月期)の粗鋼生産見通しを発表する予定で、年度に先立つ23年暦年も「9000万トン割れ」が予想される。
人口減や海外鋼材の地産地消増から、中長期に需要先細りが想定されている。年度ベースの粗鋼生産は18年度まで1億トンを超したが、19年度は米中貿易摩擦の影響で約9843万トンに。20年度以降はコロナ禍影響とその反動、22年度は部品供給不足に伴う自動車減産の影響をもろに受けた。
ここにきて7月の粗鋼生産は自動車向け回復がけん引し、19カ月ぶり増に転じたが、右肩上がりは望みにくい。車以外の製造業の基調は弱く、建設分野は人手不足、資材高騰による大型物件の停滞など鋼材需要が先送り気味だからだ。8月には再び減少し「小幅の一進一退は続くかもしれない」(鉄鋼連盟業務部)とみられている。
輸出は円安傾向でも市況の低迷があり、積極的に動けない。世界需要の半数超を占める中国は国内経済の失速にもかかわらず粗鋼生産が足元で増え、鋼材輸出は1―8月累計で約5879万トン。北野会長は「年換算では1億トンレベル。17年度以降で最高となりそうで、注意すべき水準だ」と強調する。
中国から東南アジアへの輸出は現地の需給緩和を引き起こす。過剰な設備能力が問題視される中、中国産が安く供給されれば市場がかく乱されかねず、北野会長は「(政府のメーカーへの)減産指示が今後の数字に表れるか注視する」構えだ。
国内鉄鋼大手の構造改革は仕上げの段階にある。JFEスチールは京浜地区(川崎市川崎区)の高炉などを9月16日に休止した。日本製鉄は24年度末に鹿島地区(茨城県鹿嶋市)の高炉1基休止を控える。固定費の削減、損益分岐点の改善などの効果はすでに現れており、各社は厳しい環境でも最適生産で「強靱(きょうじん)な収益基盤の確立」(鉄連の北野会長)の歩みを強めたい考えだ。