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鉄鋼原料の安定調達どうする?、日本製鉄・JFE・神戸製鋼の三者三様

鉄鋼原料の安定調達どうする?、日本製鉄・JFE・神戸製鋼の三者三様

JFEスチールが電炉への転換を検討している倉敷地区(岡山県倉敷市)の第2高炉

脱炭素化が進む中、ウクライナ情勢や米中関係など地政学リスクもあって、鉄鋼各社は原料の安定調達に注力している。日本製鉄は「原料事業」に一歩踏み込み、カナダの優良炭会社への持ち分法適用を目指す。JFEスチールは中東の還元鉄生産などに参画し、神戸製鋼所は“自社商品”のプラントを武器に原料に関与する。今後は原料に強い人材の獲得・育成も必要だ。三者三様の鉄鋼原料へのアプローチをまとめた。(編集委員・山中久仁昭)

2022年はウクライナ情勢、急激な円安によって原材料の高騰に拍車がかかった。長らく安定していた原料価格は大きく変動し、生産コストに占める変動費が7割を超すまでに高まった。原料権益を多く持つ企業では収益への寄与度も大きかった。

原料を考える上で欠かせないのが脱炭素の観点だ。二酸化炭素(CO2)排出量が国内産業界の約4割を占める鉄鋼業界にとって、安価で安定的に確保した原料を使いこなし、いかにCO2削減につなげるかが問われている。

各社は高炉から電炉への転換の模索、水素還元製鉄の研究開発を進めている。優良な原料炭なら生産時のコークス使用量とCO2発生量をともに低減できるとされ、水素還元工程でも通気性や熱源の確保に有利に働く。

高炉業界では「最終的なCO2排出量実質ゼロを見据えながらも、高炉の活用は当分続く。石炭を使ってぎりぎりまで脱炭素化する」(JFEホールディングス〈HD〉の寺畑雅史副社長)との見方で共通する。そもそも脱炭素の流れで新規開発投資が減り、ウクライナ情勢で価格が高止まりする状況となっている。

日鉄加社に出資、優良炭確保

日本製鉄は23年2月、優良原料炭を扱うカナダの新会社、エルクバレーリソーシズ(EVR)に約1100億円出資し、普通株、優先株などを各10%取得することを決めた。取締役を指名し経営に携わる。日鉄は「速やかに出資比率を15%以上とし、持ち分法適用会社にしたい」(森高弘副社長)としている。

EVRは原料炭世界2位のテックリソーシズが分離・上場させる会社。日鉄はテックのエルクビュー鉱山に2・5%出資してきた。今回の出資で日鉄は「外部環境に左右されない、厚みを持った連結収益構造の実現に向けて一歩前進した」(広瀬孝副社長)。鉄鋼大手は原料の安価・安定確保で争奪戦を繰り広げており、宿敵・韓国ポスコもEVRに出資する。

日鉄にとって、この出資にはもう一つの狙いがある。同社は「川上(原材料)―川中(生産)―川下(流通・加工)」という縦型事業構造へ変革を進めており、カナダ案件はその先駆け。橋本英二社長は22年末に「脱炭素化で還元鉄や原料炭など上流が事業領域に入ってくる」と原料事業への“進出”を高らかに宣言した。

これまでも海外で複数の原料権益を有する。「従来は調達目的の少額出資だったが、今後は(自らマネジメントに参加できる)事業になる。原料の仕様や量、タイミングなど当社の進め方とマッチさせなくてはならない」(橋本社長)。

日鉄における石炭・鉄鉱石の投資先調達率は約2割。カナダ企業への出資で石炭は約3割に高まる見通しだ。22年度の連結業績で予想する実力事業利益(在庫評価影響など一過性要因除く)約6900億円のうち、原料権益は約20%占めると見込む。

原料部門は、特に価格変動度(ボラティリティー)を踏まえたかじ取りが求められる。今後は原料に関する知見の向上、ノウハウを持つ人材の育成も必要となりそうだ。

一方、JFEHDは原料の投資先調達率が現状約10%にとどまる。日鉄との収益力の差がしばしば話題になるが、柿木厚司社長はかねて「海外の原料権益や出資先などの違い」と説明してきた。脱炭素化や原料の安定確保をにらみ、複数案件に腰を据えて取り組む考えに変わりはない。

JFEスチールの権益は、アラブ首長国連邦(UAE)での還元鉄生産やトルコの鉄鉱石採掘、ペレット製造、豪バイヤウェン炭鉱での原料炭採掘などだ。

還元鉄では鉄鋼生産における石炭使用量の削減が見込め、22年に伊藤忠商事、UAEのエミレーツ・スチールとの協業を決定。25年度下期から生産し、JFEは年約100万トンを引き取る方針だ。

トルコの鉄鉱石案件では20年にアタールHDと協定を結び、現在は事業化調査(FS)中だ。UAE、トルコへの投資についてJFEHDの寺畑副社長は「出せる資金の中で対応する」と強調。「原料権益に関して過去整理した案件もあるが、脱炭素関連の案件として十分に精査していく」との認識を示した。

同社はこのほかブラジルのフェロシリコン、フィリピンの焼結鉱、中国内蒙古のシリコンマンガンなどにも投資している。

日鉄、JFEの取り組みとは異なり、自社グループのプラント事業をベースに直接還元鉄、鉄鉱石ペレットなどの原料にアプローチするのが神戸製鋼所だ。

投資先からの原料調達率は約4%にすぎない。同社は「鉄鋼の生産規模からすると、多額の費用をかけて権益を取得しなくてもオフテイク契約(購入契約)の確保を軸に安定調達が可能だ」とする。

神鋼”自社商品”プラント活用

神鋼は三井物産とともに27年度にもオマーンで直接還元鉄を生産する方針で検討を始めた。オマーンの行政機関と事業推進に関する包括的覚書や土地予約契約を締結した。

神鋼子会社のミドレックスプラントで生産する直接還元鉄を固めたブリケット

神鋼100%子会社の持つ直接還元鉄製造技術「ミドレックスプロセス」を活用し、専用プラント2基による生産能力年500万トンで開始する考えだ。製鉄工程でのCO2排出量は高炉法に比べて最大40%削減できるという。オマーンは鉄鉱石の還元に使う天然ガスが豊富に産出され「還元鉄の生産に理想的な立地」と判断している。

ミドレックスのプラントは世界の還元鉄生産で過半数のシェアを持つ。海外鉄鋼会社などで90基以上が稼働中。自らプラント経営に携わることで、兵庫県加古川市の製鉄所での活用も含め、積極的展開を模索するようだ。

神鋼は自前のペレットプラントを保有しており、必要な微粉鉱の権益確保を進めてきた。他にない設備で海外資源メジャーと関係を築いてきた同社の“真価”が試される。

日刊工業新聞 2023年05月09日

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