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NTT法改正の議論本格化、国内競合からは反発も

NTT法改正の議論本格化、国内競合からは反発も

自民党の「NTT法の在り方に関する検討プロジェクトチーム」の全体会合に出席した甘利座長(中央奥)と萩生田光一政調会長(左)

NTT法をめぐる議論が自民党や総務省で本格化している。同法では政府が3分の1以上のNTT株を保有すると定められている。NTT株を売却して得る資金を防衛費増額の財源とする目的で議論が始まったが、メタル固定電話が主流だった1984年に施行されたNTT法の各種規制がNTTの国際競争力低下を招くとして改正を求める意見が出てきた。ただ、国内競合他社からの反発は必至で政府は難しいかじ取りを迫られそうだ。(編集委員・水嶋真人)

「NTTだけを“昭和レトロ”の規制に縛るのは日本の国際競争力を縛ることと同義語になる」―。自民党プロジェクトチームの甘利明座長は、NTT法のあり方を議論する意義をこう強調する。

日本電信電話公社時代の電柱・管路などを継承したNTTはメタル固定通信回線の大部分を持つ。こうした経緯から全国一律の固定電話サービス提供(ユニバーサルサービス)、独占体制下で蓄積した電気通信技術の普及に向けた研究開発に関する開示義務、外国人役員の禁止などがNTT法で規定されている。

だが、アナログのメタル固定電話回線が主流だった時代は終わり、現在は携帯通信が台頭。NTTドコモに加え、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルが携帯通信市場を分け合う状態となった。

さらに、クラウド化の進展で米アマゾン・ドット・コムなどのメガプラットフォーマーが通信業界でも存在感を高め続けている。平成が始まった89年に時価総額で圧倒的な世界首位だったNTTは現在、100位以下に沈む。「この現実をしっかり捉え、守るところはしっかり守り、足かせは外して国際舞台で戦わせる」(甘利氏)ことをしなければ、経済安全保障上の重要インフラとなった情報通信分野で日本のさらなる地位低下を招きかねない。

NTT法の主な規定

NTTと競合するソフトバンクグループは傘下の英半導体設計大手アームを通じ、メガプラットフォーマーや半導体関連の世界大手と連携した国際戦略を描く。NTTは2030年ごろの第6世代通信(6G)時代で主導権を握るべく、次世代光通信基盤の構想「IOWN(アイオン)」で世界に打って出たい考えだが、昭和レトロを引きずったNTT法の規制が障害となる可能性は否めない。

また今後、国内競合各社の反発も予想される。KDDIの高橋誠社長は「NTTが国際競争力を発揮する上で足かせとなっている部分の見直しが重要なのは非常に理解できる」とした一方、「利用者目線に立った議論が必要だ」と指摘した。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は短文投稿サイト「X(旧ツイッター)」に「完全民営化するなら『再度分割』し、国のお金で作ったインフラは『しっかりとした制度』の下に運営されなくてはならない」と投稿した上で「これを進めている政治家たちはどうかしている」と怒りをあらわにした。

総務省の通信政策特別委員会の専門委員を務める名古屋大学大学院の林秀弥教授は「NTT法の抜本改正は必要だが廃止は妥当でない」とし、サービス劣化などを防ぐためにも国民目線で議論する必要性を説く。12日の同委員会に出席を予定する国内通信大手トップらの発言に注目が集まる。

日刊工業新聞 2023年月9月12日

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