ニュースイッチ

丸紅・住商・三井物産…大手商社「非鉄」生産工程を低炭素化、商機拡大へそれぞれの戦略

丸紅・住商・三井物産…大手商社「非鉄」生産工程を低炭素化、商機拡大へそれぞれの戦略

電源を100%再生エネ化したチリ・センチネラ銅鉱山のプラント(丸紅提供)

大手商社が非鉄金属の生産工程の低炭素化を強化している。丸紅は出資参画する銅鉱山の操業やアルミニウム製錬所で再生可能エネルギーの活用を推進。住友商事はボーキサイト加工の熱源に水素を使うほか、三井物産はマイクロ波を利用してリチウムの熱処理工程の電化を図る。電気自動車(EV)向けなどで需要拡大が見込まれる非鉄金属の供給網で環境対応を推し進めることで商機拡大を狙う。(編集委員・田中明夫)

供給網を環境対応

EVの部品や再生エネのインフラに使う非鉄金属は中長期の需要拡大が見込まれる。国際エネルギー機関(IEA)によれば、2050年に二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロ(ネットゼロ)を達成するシナリオで50年の銅需要は21年比6割増となる見通し。さらに、リチウムイオン電池(LiB)の正極材に使うニッケルは同2倍、リチウムは同13倍に拡大すると予想する。

また、日本アルミニウム協会は50年のアルミ需要が17年比で5割増えると試算する。EV向け軽量材などで需要増を見込む。

一方、非鉄金属の精製では熱処理や電気分解で大量のエネルギーを消費するため、生産工程の低炭素化が課題となる。加工ラインが中国などに集中して供給リスクも高いため、他地域で環境対応を図りながら供給網を構築することも重要視されている。

丸紅:銅・アルミ精製に再生エネ

丸紅は銅とアルミの精製で再生エネの活用を推進している。出資する南米の3カ所の銅鉱山全てで、電気分解などの操業電源を再生エネに100%転換したほか、地域共生を含め評価される国際銅協会の「カッパー・マーク」認証を得ている。チリでは海水の淡水化設備を建てて鉱物処理に必要な水を供給し、水不足の懸念地域の取水を削減するなど総合的に環境対応を強化している。

今後は、技術動向を見極めながら重機や輸送機の電動化のほか「トロリー(有線)を引いて車両に電力を供給するなどの有効策を検討する」(大石直史鉱山事業部副部長)とする。出資するセンチネラ銅鉱山では23年中に、精鉱生産量を銅分ベースで現行の年間15万トンから同25万―30万トンに拡充する投資決定も目指す。EV向けなど脱炭素化に必要な銅の供給拡大と生産工程の低炭素化の両方を推進する。

アルミ事業では、出資するカナダのアロエッテ製錬所が水力発電由来の電力を使って生産する「グリーンアルミ」を米国に出荷している。顧客企業向けに環境対応情報などの追跡可能性(トレーサビリティー)も確保して、アルミの国際団体アルミニウム・スチュワードシップ・イニシアチブ(ASI)の全認証を取得した。

協業先の英資源大手リオティントとは温室効果ガス(GHG)排出量などの追跡システムを組み合わせてグリーンアルミを販売している。2月に国内大手輸送機メーカーと販売契約を交わしたのに続き足元では複数件の引き合いも来ており、製品供給網のGHG排出量「スコープ3」の削減に取り組む需要家ニーズの取り込みを狙う。

中長期的には需要シフトが見込まれる再生アルミの取り扱い量の拡大も図る。リサイクル技術の進化などを見極めながら「需要に先んじて顧客ニーズに対応することが求められる」(赤坂英佑軽金属部地金課長)とし、スクラップの発生増が想定される新興国などで回収・供給網の構築を検討する。

住友:商事熱源に水素、製造・供給

住友商事は英リオティントが運営する豪州のヤーワン・アルミナ精製工場の熱源に水素を供給する(リオティント提供)

住友商事はアルミ原料のボーキサイトの加工工程の熱源として水素を使う実証事業を始める。リオティントの豪州のヤーワン・アルミナ精製工場内で水素プラントの建設を24年に開始し、25年までに水素利用によるバナーの稼働を目指す。アルミの中間原料となるアルミナを精製する工程に水素を利用する世界初の試みになるという。

現在は、天然ガスを使う熱処理工程は同精製工場のエネルギー消費の3割を占める。燃焼してもCO2を発生しない水素を、燃料電池自動車2500台の1年間の使用量に相当する年間約250トン生産して熱源に活用する。

同実証事業は、住友商事として最終投資決定を行った初の水素製造・供給プロジェクトで、「商用化に向けた段階的なアプローチとしての第一歩となる」(同社)とする。

現地では他産業への水素活用も目指すほか、将来は豪州域外への水素輸出を狙う。非鉄金属の加工工程への水素利用を起点に次世代エネルギー事業の拡大も狙う。

三井物産:リチウム製錬、マイクロ波で電化

三井物産はマイクロ波化学と共同でリチウム製錬の低炭素化技術を開発する。1100度C前後の熱をリチウム鉱石に加える工程で化石燃料の代わりにマイクロ波を活用し、26年の商用化を目指す。

電子レンジにも利用されているマイクロ波は、特定の物質に効率的に熱を伝えられる。再生エネを組み合わせてマイクロ波を起こす場合、液化天然ガス(LNG)を熱源に使う製錬工程に比べCO2排出量を90%削減できるという。

リチウムの処理工程を電化・低炭素化することで環境制約を解消し、供給元を増やす狙いもある。IEAによれば22年時点でリチウムの加工工程の65%は中国に集中し、寡占状態にあるため供給リスクが高い。EV用LiBの正極材原料としてリチウムの確保が重要課題となる中、安定供給に向けて「低炭素の製錬プロセスを中国以外で作っていく必要がある」(三井物産の森恭隆電池原料室長)とする。

脱炭素技術に使われる非鉄金属では、加工工程が特定の国に集まるため供給懸念が高い。IEAによればLiBの正極材に使うコバルトの加工工程の7割は中国にある。ニッケルは最大産地のインドネシアが鉱石輸出を禁止した影響で同国内に中国勢を中心に製錬所の建設が進んだため、同国シェアが4割を占める。

また、EVや風力発電機のモーター磁石に使うレアアース(希土類)は中国シェアが9割と独占に近い。マイクロ波は他金属の製錬工程にも応用可能で、マイクロ波化学の塚原保徳最高科学責任者(CSO)は「希土類や鉄、コバルト、ニッケルへの活用も積極的に開発している」とする。三井金属は「他の金属でもマイクロ波化学と協業を検討していきたい」(森燃料電池室長)とし、低炭素の供給網の拡充を狙う。

日刊工業新聞 2023年08月09日

編集部のおすすめ