井関農機が欧州市場で電動芝刈り機を本格販売投入する狙い
井関農機は2024年にも欧州市場で電動芝刈り機を本格販売する。23年末に欧州の景観整備業者や自治体向けに電動式乗用芝刈り機30台をモニター販売しており、ユーザー要求や製品の使い勝手が確認でき次第、一般販売を始める。欧州は日本に比べ環境意識が高く、環境配慮製品に対する行政の優遇支援も手厚い。同社は電動芝刈り機の早期投入をテコに、電動農機市場で先行する考えだ。
井関農機は12年5月に愛媛大学と共同で乗用電動トラクター試作車を開発するなど、電動化研究では同業他社に先行している。
欧州で30台限定発売した「電動モーアSXGE2」は稼働時間が3・5―4時間、充電時間が4・5時間で、電池込みの車体価格はエンジン車の2倍強。建設機械がおおむね3―4倍するのに比べると安く抑えたとも言えるが、高価であることに変わりはない。
電動ショベルが充電スタンドの設置や稼働パワー不足の問題を抱えているのと同様、農機もぬかるみに車輪がはまってパワーが必要になるなど、燃料パイプやホース系部品をどのように再設計するかの問題がある。井関農機が欧州展開の製品にトラクターでなく芝刈り機を先行させたのは、こうした実情も影響している。
芝刈り機が一般に固い地面の上を走るのに対し、トラクターや田植え機はぬかるみや凹凸の地面の走行が多い。車体重量が大きくなるとぬかるみにはまってしまうので、重量バランスも考慮する必要がある。電池を多く搭載しなければならない分、車体費用も高額化するため、同社では「電動化製品が市場に本格登場するまでには数年かかる」(渡部慎吾執行役員)と見ている。
欧米や豪州の小麦畑やトウモロコシ、大豆などは乾田が主で、トラクターやコンバインは走行しやすい。環境意識や食の安全意識が高まる中、電動農機が排ガスを発生しないことは大きなセールスポイントになる。電池価格の低下や充電性能の向上とともに、電動農機市場も徐々に広がることが期待される。