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「電炉化、数年内に判断」、神戸製鋼社長が語った脱炭素化戦略

神戸製鋼所は脱炭素化で、鉄鋼生産の高炉からの電炉シフトを検討する一方、電気自動車(EV)向けに二酸化炭素(CO2)排出量の少ない「グリーン鋼材・グリーンアルミニウム」の一体提案を強化する。加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の高炉について、山口貢社長は日刊工業新聞社の取材に「次の更新は2030年代半ば。電炉化するかどうかの意思決定は20年代後半に行う必要がある」とし、その可否を数年内にも判断する方針を示した。

神戸製鋼所はエンジニアリングを含む機械系事業、電力事業を擁するほか、主軸の素材系は鉄鋼とアルミの2大素材を持つのが特徴だ。山口社長は加古川高炉の電炉化に「高級鋼をつくれるか、量産に必要な大型電炉ができるかが課題。(グリーン)電力の安定・安価な調達も前提条件」との認識を示す。

機械系には直接還元鉄プラントを製造する完全子会社、米ミドレックスがあり、世界の還元鉄設備シェアの8割を握る。山口社長は「当社の脱炭素化はミドレックスの技術が(一連の施策の)真ん中にあり、還元鉄は外販もするほか、加古川でも使う」と語った。

電炉化の意思決定について「20年代後半に行う」と話す山口社長

先に電炉化を表明した日本製鉄、JFEスチールに限らず、世界でCO2排出量が少ない電炉へのシフトが進む見通し。山口社長は「世界でシフトが急激に進めば(主原料の)鉄スクラップの供給が追い付かず、還元鉄の需要は増える」と強調。神鋼が三井物産などと検討するオマーンでの還元鉄生産は現在、「長期・安定的な顧客がどれぐらい見込めるかを探っている」。

一方、トヨタ自動車がEV生産にアルミの一体成形技術「ギガキャスト」を導入することについては、「部品点数が減り、(アルミ活用で)鋼材使用量が減る想定で臨む。技術的課題はあろうが、将来は克服されると思って準備する」と述べ、同社事業への影響度を精査していることを明らかにした。

アルミ板やアルミ部品を持つことが鉄鋼他社より優位かについては「減る部分、増える部分、当社が得意な部分、不得意な部分とさまざまなはずで(同じアルミ業界でも)競争が激化するだろう」と慎重な姿勢をみせた。

神鋼はそれまで別々の鉄、アルミ事業を集約し、20年度に「鉄鋼アルミ事業部門」に再編した。相乗効果は日産自動車からのグリーン鋼材・グリーンアルミの一体受注などに現れており、山口社長は「自動車メーカーからワンストップで問題解決を提案できる点で評価いただいており、今後も効果を追求する」とした。

注力するグリーン鋼材について「業界全体で市場形成を目指したい。従来の鋼材とは性能が変わらず、(見かけでは分からない)低炭素という付加価値を顧客に認めてもらえるか。上昇するコストの分担ルールづくりが重要で、政府の支援もお願いしたい」と強調した。

今後策定する次期中期経営計画(24―26年度)では「脱炭素や循環型経済で追い風が吹く機械系の成長を見込む。扱う媒体が石油系ガスから水素、アンモニアに変わっても圧縮機や気化器などの“機能”は変わらない。エネルギー転換が進む中で適応技術を生かす」と意欲を示した。

日刊工業新聞 2023年07月31日

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