「無人運航船」実用化に必要な技術の中身
日本財団が主導する「MEGURI2040」では、どのように2025年の無人運航船の実用化までレベルアップを図るのか。海洋事業部海洋船舶チームの桔梗哲也チームリーダーは「技術的なテーマは四つある。まず船の多い海域での自動操船技術を熟練者に近づけたい」と話す。
21年度までの実証で無人運航には成功したものの、「航路上に船を検知すると、全ての船を避けるために航路を書き換え、カクカクと動いていた。他の船が不安を感じてしまう動きだった」(桔梗チームリーダー)。熟練者ならば、他の船の状況をみて「危なくないから、大きく緩やかに舵を切ればいい」などの判断ができる。これが目指すレベルだ。
無人運航船には自動運転車と同様、人間の「目」の代わりのセンサーやカメラを搭載する。これらから得たデータを基に運航操作を判断する、人間の「頭脳」の代わりとなる機能を高めていく。
二つ目は、遠隔から複数の船舶を同時に支援する技術だ。これまでの実証でも陸上から支援したが、「支援室1室で1隻に対応していたのではコストが合わない」(同)。今回は二つの支援室を設けて、それぞれ複数船舶の支援に取り組む。さらに「川崎汽船のチームの日本無線を中心に、移動式の支援センターに挑戦する」(同)という。地震などの災害時にも運航支援を止めないためだ。
このほかに、自動で桟橋などに離着する技術や最新のサイバーセキュリティー対策にも取り組む。安定的に無人運航を行うための技術をそろえていく。
25年まで残り時間は2年半と短いが、「プロジェクト開始時から、メンバーは『技術的にはできる』とみていた」と桔梗チームリーダーは話す。
というのも、日本海洋科学(川崎市幸区)の「ARS」や三菱造船(横浜市西区)の「スーパー・ブリッジX」など、操船を補助する技術は以前から開発されてきた。人間の「腕」代わりとなるオートパイロット技術もある。これまで積み重ねた技術とそのレベルアップには自信があった。
だが、無人運航船は技術だけでなく、規制緩和や国際的なルールづくりが進み、社会が受容しなければ実現しない。それにはまず船の安全性を示す必要があるが、「今は安全性を評価する“ものさし”もない」(同)。そこでプロジェクトでは安全性の評価方法を検討し、国際機関へ提案する安全性評価事業にも注力する。
無人運航船プロジェクトの先に関係者が目指すのは、船に関わる業界の活性化だ。今は拘束時間が長い船員の仕事も、無人運航船が普及すれば「幕張の陸上支援センターで9時から17時まで働き、交代する」(同)時代が来るかもしれない。技術革新によって業界の新たな航路を開く。(梶原洵子)