映画「大名倒産」に学ぶ、江戸のサステナブル生活の楽しみ方
江戸時代はサステナブル(持続可能)な世界だったと言われている。公開中の映画『大名倒産』でもムダな消費を控え、モノを賢く使い回すシーンが登場する。倹約のためだが、登場人物はサステナブルな生活を楽しんでいる。江戸時代の生活には戻れないと言われるが、学ぶべきことが多い。
映画の舞台は江戸時代後期。原作である浅田次郎氏の同名小説によると「幕府の余命はわずか数年」なので、今から160年ほど前だ。主人公の小四郎はある日、大名の跡継ぎだと告げられ、庶民から丹生山(にぶやま)藩の殿様に転身。先代藩主から借金を踏み倒すように命じられて物語が動き出す。
小四郎は屋敷の不用品を売り、布団や着物は必要な時に借りる。江戸時代はモノの貸し借りや修理が一般的であり、ムダな消費をしない社会だった。大量消費を見直し、サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行手段として注目されるリユース(再利用)やサブスクリプション(サブスク、定額制)、シェアリング(共同利用)が江戸時代にあった。
ただ、小四郎は家臣から大名家の威厳が損なわれると制止される。原作では「(江戸時代が)260年にもなれば、起源も意味も不明のならわしがたくさんある」と武家の慣習の形骸化を指摘している。しかも、礼法を守れるかどうかで大名の出世が決まる。小説で小四郎は「歪んだ制度と武士の困窮は不可分」と悟る。現代の企業でも先輩が始めたからと廃止できず、従業員を疲弊させている決まり事がある。
作品はコメディーだが、現代の問題を風刺する場面が随所に登場し、持続可能性を実践する先人の知恵に気付かされる。
また、丹生山藩のモデルである村上藩(新潟県村上市)にも持続可能性の先例がある。江戸中期、サケが不漁になると武士が川を遡上(そじょう)したサケをすべて捕獲せずに産卵させることを提案。実行するとサケが復活した。乱獲を防いだことでサケは現代、村上の名産となった。地域の生態系を回復させて地域振興につなげた例であり、自然回復を優先する世界目標「ネイチャーポジティブ」が実践されていた。
インタビュー・江戸と現代共通の課題/松竹チーフプロデューサー・石塚慶生氏
『大名倒産』を制作した松竹の石塚慶生チーフプロデューサーに作品に込めた思いなどを聞いた。(編集委員・松木喬)
―映画は現代の課題と重なります。
「原作を読んだ直後は感じ取れていなかった。浅田次郎先生が江戸時代を『遠い昔のように思えるだけ』と書いていた。その視点で読み直すと、現代との共通点が見えた。小四郎は借金返済に奮闘するが、お金の悩みは現代人も同じ。今を生きる私たちも共感できるのが邦画の良さだ」
―不必要な物を買わないというのも、現代人の新しい価値観に通じます。
「日本は戦後、『増やせ、消費しろ』の社会となり、短期間に大量販売するファストファッションまで登場した。いま、大量消費が限界に達し、江戸時代が見直されている。江戸時代には自然を壊さない範囲で高度に発達した農業社会もあった。鎖国だったので、限られた資源でやりくりする発想だったんだろう」
―原作では形骸化した礼法が、武士を困窮させたと指摘していました。
「日本人の美徳だと考えると、すべてを不必要とは思えない。ただ、企業にも続ける意味を失った慣習がある。問題は利権構造になることだ。利益を中抜きして私腹を肥やす悪者がいれば、記録の改ざんが起きている。映画にも現代の出来事を盛り込んだ」
―映画を見ると、地方にも脚光を当てていると感じました。
「撮影した村上市の方も観光や名産を伝えようと頑張っていた。地方の産品でも日本全国や世界に流通できる時代になった。手塩にかけた商品に誇りを持ってほしい。どうしても日本人は欧米に劣等感を抱きやすい。映画界も、資金力に乏しいから邦画はつまらないと決めつけられる。比較論ではないはずであり、頑張ろうと思う。小四郎は田舎や庶民育ちの劣等感はなく、そこが強さだろう」