三井物産・丸紅・三菱商事…サステナブルな自社事業を社内に周知、大手商社で広がる理由
自社のサステナブル(持続可能)な事業を改めて社員に周知する取り組みが大手商社で広がっている。三井物産は社有林で採取したアカエゾマツを原材料に使用したクラフトジンのコンセプトを企画。丸紅は社員食堂で水産養殖管理協議会(ASC)の認証を取得した魚などを使った料理を提供した。三菱商事は洋上風力発電事業を計画する秋田県のフェアを開催。総合商社は商品軸による縦型組織だが、横の取り組みを社員にアピールすることで、新しい事業の創出を期待する。(編集委員・中沖泰雄)
三井物産社有林のマツで贈答用酒を製造
三井物産は全国74カ所に合計約4万4000ヘクタールの社有林を保有している。東京23区の約70%に相当し、企業ではトップクラスだという。樹木は二酸化炭素(CO2)を吸収することから、カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)を実現する事業の重要な資産だ。
ジンは穀物類からつくるアルコールに根・葉・樹皮・種子・花・実・薬草・ハーブを浸して再蒸留し、香味付けした酒であるため、「森を愛する人が愛でる酒」といわれる。三井物産が企画した「瑠璃」にも社有林で採取した枝葉を使用している。
北海道支社と本社サステナビリティ経営推進部が中心となって企画した。北海道支社業務室の末柄琢也室長は企画づくりを通して「社有林に対する意識が高まった」と強調する。
積丹スピリット(北海道積丹町)に製造を委託しており、アカエゾマツの香りが鼻に抜ける味わいが特徴だ。非売品で贈答用として配布している。
丸紅社員食堂で食材・商品紹介
丸紅は21年から年に2回、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する自社で取り扱う食材や商品を社員食堂で紹介している。組織を越えて環境配慮型食料事業への意欲を高め、同社が強化する「グリーン戦略」の推進につなげる。
2、3月の「サステナブル・フード・デーズ」では天然水産資源が頭打ちとなる中、ベトナムで養殖した白身魚「パンガシウス」のムニエルを提供。ASC認証を取得しているほか、周年生産が可能で加工しやすく、安価なのが特徴だ。味も特殊製法で身の泥臭さを低減し、ホキやスケトウダラの代替品としても活用できる。
大豆由来の植物肉を使用したキーマカツカレーや、フードロス対応のエビ、サステナブルコーヒーなども用意。メニューには原材料の調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されるGHG排出量をCO2に換算して表示するカーボンフットプリント(CFP)を掲示した。
三菱商事洋上風力稼働、秋田PRで社内向けフェア
三菱商事は秋田県能代市・三種町・男鹿市沖で28年12月から、同由利本荘市沖で30年12月からそれぞれ洋上風力発電所の商業運転を始める。その同県の魅力を知り、洋上風力発電事業に対する社員の理解を深めるため、22年9月に社員食堂で「秋田フェア」を開いた。名産のハタハタのすり身が入ったコロッケ風揚げかまぼこや、同県産メバルの煮付けなどを提供した。
28年8月から商業運転する千葉県銚子市沖を含めて洋上風力発電の先にあるのは地域創生だ。持続可能な漁業支援体制の構築や地域産業の振興と雇用の創出、住民生活の支援など幅広い。そのためにも事業を実施する地域を社員に知ってもらう必要がある。その分かりやすい切り口の一つがグルメだ。今後の開催についても前向きに検討している。
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