アンモニア供給網整備、石油コンビナートで始動する脱炭素化構想
各地の石油コンビナートで、脱炭素化に向けた構想が始動した。官民協議で先行する鹿島地区(茨城県神栖市)や川崎地区(川崎市川崎区など)で具体案が示され、周南地区(山口県周南市)ではカーボンフリーアンモニア供給網整備の検討が始まった。石油化学産業を中心に発展を遂げたコンビナートは、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応で構造転換を迫られる。競争力を維持しつつ脱炭素化に貢献するため、企業や自治体は連携しながら知恵を絞る。(大川諒介)
周南地区で操業する出光興産と東ソー、トクヤマ、日本ゼオンの4社は、2030年までに年間100万トン超規模のアンモニア供給網の構築を目指す。出光の徳山事業所の貯蔵施設をアンモニアの受け入れ拠点として改修し、化学プラントなど需要拠点とのパイプラインをはじめ供給インフラ整備を検討する。新たなエネルギー源として活用し、アンモニア燃焼など関連技術の実証も連携して行う。
供給規模は足元の内需に相当し、構想が実現すれば国内初の取り組みだ。アンモニアは燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、発電設備やナフサ分解炉などに使う化石燃料の代替として有力視される。トクヤマの横田浩社長は「周南地区はカーボンニュートラルコンビナートの先行者になるだろう」と強調。「自家発電における消費は当社が最初になるのでは」とアンモニア導入に意欲的だ。
鹿島地区でもエネルギー供給網の整備が計画される。隣接する鹿島港のほか茨城港を水素・アンモニアなどの供給拠点とする構想が浮上。さらに茨城県と三菱ケミカルは協定を結び、ケミカルリサイクルや原材料のバイオ化、CO2利活用などで循環型コンビナートの形成を目指す。四日市、水島、大分などの他地区でも官民で検討の場が設置され、脱炭素化に向けた施策の議論が進む。
コンビナートが立地する臨海部では国内におけるCO2の約6割が排出されるという。CO2排出削減には化石資源の利用を前提としたインフラを再整備する必要があり、脱炭素化の技術革新も欠かせない。日本化学工業協会は50年のカーボンニュートラルに向け、化学産業だけで総額7兆―10兆円近くの投資が必要になると試算する。
コンビナート内の企業連携が活発化することで、重複投資の回避や技術連携などの効果が見込める。一方で「それだけで根本的な解決は望めない」(素材メーカー幹部)。国内は比較的小規模のコンビナートが多く、地区単位の技術導入や行政の支援には限界があると指摘される。
立地企業からも地区間の連携を求める声が上がる。三井化学の橋本修社長は「西日本を中心にナフサクラッカーが1基のみの地区が複数ある。地域だけで完結した場合シナジーが限られる」と語る。構想を具現化しつつ、脱炭素時代を見据え、より大きな視点で将来像を描けるか。コンビナートの次なる取り組みが期待される。