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「共感」を軸に業務提携する2社に聞く、「共感の経済圏」とは何か?

クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」を運営するマクアケと、ビジネスSNS「Wantedly(ウォンテッドリー)」などソーシャルリクルーティングサービスを展開するウォンテッドリーは、1月に業務提携を開始した。
 両者をつなぐのは「共感」だ。企業が製品や事業への想いやストーリーを伝えることが共感を生み、商品購入や求人応募の後押しになるといった動きが広まっている。マクアケの坊垣佳奈共同創業者/取締役と、ウォンテッドリーの仲暁子代表取締役CEOに、「共感」はどうすれば生まれるのか、なぜこの動きが加速しているのかを聞いた。(聞き手・昆梓紗)

根底に流れる想いが共通していた

―業務提携のきっかけについて教えてください。
坊垣氏 広島県知事向けに事業プレゼンの機会があり、ウォンテッドリーの執行役員だった方と一緒だったんです。隣でプレゼンを聞いていて、企業の思想部分に共感できる点が多いことに気づきました。もちろん、ウォンテッドリーの事業概要は存じ上げていましたが、改めて根底に流れている思いや事業の考え方に関する共通項を見出すことができ、「思い」の部分を大切にした協業ができるのではないかと思い、私からお話をさせていただきました。
 ウォンテッドリーも同じように思っていただいていたようで、会話がスムーズに進み、具体的なお話が進んでいった、という形です。
 
仲氏 マクアケがまだサイバーエージェントの傘下だった時から、交流はあったと記憶しています。また、「共感の経済圏(人・モノ・金)」という点から考えて、「人」はウォンテッドリー、「金」はマクアケとも言えますし、かなり似た領域だなと前々から思っていました。協業まで全く違和感なく進みました。

―特に共通すると感じた部分は。
坊垣氏 ウォンテッドリーは「共感採用」を掲げていますよね。企業の想いや背景・歴史、経営者の考え方など、深掘りしなければ見えてこない部分をしっかり求職者に伝え、そこに共感する人をマッチングするということをされています。
 私たちもマクアケでのプロジェクト(クラウドファンディング)において、商品そのものの機能や価値だけでなく、それを生み出した企業の歴史や技術をしっかり伝えることが、その商品の価値を向上させると考えています。また、そこに共感して購入に至る消費者が年々増えていることを実感しています。
 各方面において企業の背景や思いを伝えることの重要性が高まっています。そこにしっかり取り組んでいるという点が共通しているのではないかと思います。
 
仲氏 思いを実現するためにはそこに共感する人を集めてチームを作り、資金を調達したり作ったものを販売したりする必要がありますので、それが採用と販売なのかなと。思いを実現していくための両輪のようなイメージだと思っています。
 
坊垣氏 マクアケを利用している企業さんは「人が足りない」という話になるんですよね。プロジェクトが成功すると、バイヤーや商社から声がかかったりする。販路を拡大していく中で、そこに従事する人が足りない、となります。また、社内の機運が高まって、「さらに新しい製品を開発しよう」となったり、新たなチャレンジをしようとした時にはやっぱり人が足りないという話になる。もちろん、マクアケを利用する前に、対応するための人が足りない、という話もあります。マクアケの前後で採用が課題になります。

マクアケの坊垣佳奈共同創業者/取締役

―広島県知事へのプレゼンがきっかけということで、地方での取組みに力を入れているのでしょうか。
仲氏 グローバリゼーションが進んでいるので、構造的には都市部に人が集中する流れになってはいます。ただ、多様性が失われてしまうのは良くないので、その地方の文化が残されて、経済圏が回っていくのは重要なことだと思っています。
 一方、現状のウォンテッドリー利用状況をみると東京の企業が多いです。テック系のスタートアップの利用が多いことが要因で、そういった企業は東京に集中しているので。ただし、今はどこにいてもオンラインで繋がれるので、あまり場所は関係ないかもしれません。
 
坊垣氏 もともとクラウドファンディングサービスとしてスタートした経緯はありますが、ここ最近、地方や中小企業の支援といった分野に力を入れています。そういった企業は、新たなチャレンジをする際にさまざまな課題にぶつかります。その課題をなるべく解決していきたいと考えて事業展開してきました。
 当社が力を入れていきたい分野の一つに「日本のものづくり」があります。モノづくりはもちろん全国で行われていますので、地方拠点を早くから設置しており、その地域特有の産業やニーズ、課題などを捉えて事業展開してきました。地銀や地方信用金庫など100行以上と提携しており、今後も拠点拡大を目指し引き続き注力しています。

―地方企業特有の問題点とは。
坊垣氏 コミュニティが狭いので、画一的な思考になったり情報量が少なかったりということがどうしても発生しやすく、凝り固まった価値観から抜け出せない、ということが挙げられます。ステークホルダーが常に同じで商流も同じだと、新しい発想が生まれにくく、どんどんチャレンジに対して億劫になってしまうというのは、いろいろな事例をみていて感じます。
 チャレンジのきっかけや、外部刺激としてマクアケを使ってほしいと思います。もちろんモノが売れるというメリットもありますが、心理的な障壁を打開する後押しという面は結構重要です。よく中川政七商店さんが(地方などで成功した中小企業に対し)「一番星」という表現を使いますが、地方で「一番星」「二番星」が出てくると、周りへの波及効果で地域全体が盛り上がる、という事例も出てきています。

ストーリーや背景を整理し伝える

―業務提携の具体例として、マクアケでプロジェクトを実施した企業のうち、採用に課題を抱える企業をウォンテッドリーにつなぎ、採用ページ作成を一部サポートしてもらう、またマクアケ実施企業の募集への関心を高める特集企画をウォンテッドリー上で実施する、といった事例がスタートしています。工具箱を製造販売するリングスター(奈良県生駒市)などが成果を上げていると伺いました。
坊垣氏 通常よりも応募数が多く、求職者の熱量も高いと聞いています。これは協業に際してまさにイメージしていたことです。自社の思いやストーリーをしっかり整理し、伝えることを一度マクアケで実践しているので、それをウォンテッドリーのページでも応用して成果を上げているのではと思います。改めて親和性が高いなと思いました。
 
仲氏 マクアケの利用企業はもともとこういったコンテンツを作成したことのない場合も多いと思うので、サポート体制がしっかりしているなと感じました。ウォンテッドリーもそこは共通している部分です。
 高い技術や熱意を持っていてもそれを発信できないことや、ITツールを使いこなせないなどの企業が多い中で、発信の仕方を整理する重要性は共通していますね。

マクアケでのリングスターのページ
坊垣氏 伝えたいこと、伝わりやすいことは何かといったことを客観的に整理することや、写真の使い方、ファーストビューのキャッチコピーなどは特に重点的にアドバイスします。マクアケのプロジェクトを一通りやると、どういうターゲットにどうアピールしていくかが整理されます。これは、その後の販路開拓やユーザーへのプロモーションにも共通することで、おそらく人材採用にもつながってくるんじゃないかと思います。
ウォンテッドリーでのリングスターのページ
仲氏 ウォンテッドリーでもライティング支援のツールやサービスなどを実施しています。利用企業のボトルネックや支援の仕方は似ているなと思います。ただ、マクアケはECなので、(商品購入を促すために)より深い情報が載っているな、というのは見ていて感じました。参考にできる部分があるかもしれない。
 今回のリングスターの事例では、ページの完成度が高いことも応募が多かった要因で、マクアケのページを立ち上げた経験を横展開している成果だと思います。

―「会社のストーリーを訴求し、共感してもらうこと」の重要性を感じるものの、実行の仕方が分からないという企業は多いと思います。
坊垣氏 一つは、人が見える、顔が見えるということは重要だと思います。マクアケでは、ページをライターに依頼して仕上げてもらうことなく、マクアケの担当者がコンサルティングしながらも企業の方に作成してもらうスタイルをずっととっています。その方が、その企業らしさが表れ、人間味が見えてくると思うからです。
 普通のECサイトだと、工場での製造風景が載っていたり、企業の方々が並んでいたりするページってほとんどないと思うんです。いかに早く購買・決済まで到達させるかに重きを置いて設計しているから。マクアケのページはその真逆をいっているのですが、それでもコンバージョン率やリピート率は高い。もちろん、モノそのものに魅力がないと購入には至りませんが、モノの背景やストーリーが購入の後押しになるというケースが多いです。
 また、中小企業の場合は、購入することで消費者がその商品や企業に参加できる余地がある。地下アイドルみたいな話なんですが、完成されたものではない良さというか、応援することで成長を後押しできるというのも共感の1つの要素かなと思っています。

ウォンテッドリーでのリングスターのページ(私たちについて)
仲氏 同じように、人の顔が見える、というところは重要だと思います。ウォンテッドリーのページは(仕事を)「なぜやるのか」を前面に出していて、一般的な求人サイトではあまりない作りになっています。企業からすると手間がかかるので敬遠されたりすることもあるんですが、長い目で見ると会社と親和性の高い方からの応募があるので支援されている面もあります。
 企業って外から見ると能面で、何を考えているか分からないということも多いと思うのですが、実際どんな人がいて、どんな仕事をしているのかというのを、リアリティを高めつつ伝えるというのが重要なんじゃないかと思っています。ウォンテッドリーのUXではユーザーが実際に企業に話を聞きに行くところまで含めて設計してあるのですが、そこまで到達しなかったとしても、どんな企業なのかがより深く分かる。
 そのためには、繰り返しになりますが、「なぜやるのか」を詳しく伝えることや、ブログ機能もあるので日々の状況をこまめに更新していくこともよいと思います。

共感の経済圏が支持される理由

―「共感を軸にした経済圏」が盛り上がりを見せているのはなぜだと思いますか。
坊垣氏 持論があるのですが、情報の取得性の話があるんじゃないかなと。以前はマスメディアや企業などから一方的に得る情報がほとんどで、それを一方的に信じるしかなかった。しかし現在は、企業が一方的に発信する「良く見せよう」という意識の働いた情報だけでなく、第三者がさまざまな情報を発信するようになっています。だからこそ、一般市民のなかで選択眼を持とうという意識は当然高まります。SDGsやエシカルが広がるのも、不都合な情報を隠しておけなくなっているというのがあるのではないかと。
 逆に、企業側も(情報発信において)いろいろな工夫ができるようになりました。作り込まれた情報だけでは伝わらなくなっています。
 
仲氏 リアルを求める消費者が増えているのはあると思います。大きな変化でいうと、物質的には満たされている時代になってきていますし。モノに対しては機能性以上のものが欲しい、仕事に関しても、生きてくために働くのではなく、それ以上の何かを求めたい人が増えています。自分がなにか大きなものの一部に貢献したい、とか。
 
坊垣氏 若い世代ではこの傾向が圧倒的に進みつつありますよね。
 
仲氏 そうですね、日本だけでなく先進国の若い世代は同様の傾向が進んでいますね。

―この流れは一時的なブームではなく、不可逆だと思いますか。
坊垣 国が発展して、文化度や人間の成熟度が上がると、マズローの欲求じゃないですけど、欲求が外へ向かっていくので、不可逆かなと思います。
 
仲氏 人不足はかなり構造的な問題で、そうなると職業は選べる選択肢が増えていくしかなくなります。一時的に物価が高騰し「生きるために働く」のような状況になったとしても、中長期的には変わらないのではと思いますね。

ウォンテッドリーの仲暁子代表取締役CEO

―現在はマクアケからウォンテッドリーの利用につなげる、という施策を実施していますが、今後逆のパターンも行っていく予定でしょうか。
坊垣氏 初期から議論はしていますが、順番的にはマクアケを活用するタイミングはアーリーフェーズが多く、積極採用をしていないケースも多いです。マクアケをきっかけに人材が必要になり、ウォンテッドリーを利用するという流れの方がボリュームは多そうだなと思っています。
 とはいえ、今の流れの延長上で、さまざまな地域や産業領域で成功事例が増えていけばいいなと思い、サポートしていくつもりです。

―ウォンテッドリーは中堅から大企業の利用も増えていると聞いていますので、中小企業とはまた違ったアプローチも可能そうです。
仲氏 規模の大きい会社が新規事業のプロトタイプとしてマクアケを使うということもあるのかなと思うので、場合によっては新しい組み方ができるのではと思いますね。
 冒頭にもお話した通り、共感の経済圏での立ち位置や、思想的にも近いところにいると思うので、何が最適な組み合わせかを試行錯誤していきたいです。消費して終わりではなく、何か大きなもののためになっている実感だったり、日銭を稼ぐために働くではなく、何か大きなものに貢献していくために働くだったり、働くために生きるくらいの人が増えればいいなと思います。
 
坊垣氏 そういったものは本質的には人が持っている欲求だと思います。その領域を引き出し、強化していくような、価値観のシフトにチャレンジしている企業同士だと思うので、ご一緒しながらお互いを勉強していきたいと思います。

ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
以前、共感とモノづくり、購買行動の変化について取材した。「共感」と聞くとゆるふわ感があるかもしれない。しかし、もっと力強い、深いうねりを感じた。共感を追求していくと、自社がなぜそれをやるのか、ひいては、なぜ「自分」がそれをやるのか、に切り込んでいく必要がある。それをどう伝えるか、うわべだけでない部分での勝負になる。逆に言うと、中小企業でもしっかりと切り込んで言語化できれば共感を得られる可能性がある。

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