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「仕事は面白くあるべき」を追求してきたウォンテッドリー仲CEOが挑戦したいこと

スイッチを入れる人 #3 仲暁子CEO/ウォンテッドリー

就職・転職環境が変化する中、ウォンテッドリーはいち早くその波をとらえ、ソーシャルリクルーティングサービスを展開し成長してきた。同社の採用サイトでは求職者がプロフィルを公開する一方、利用企業は自社の理念を軸にしたコンテンツを作成。求職者の価値観と企業のビジョンが合致するマッチングを実現しており、「仕事の面白さ」を追求するサービスに共感が広がっている。仕事への価値観や採用方式の変化について仲暁子最高経営責任者(CEO)に聞いた。

【連載】スイッチを入れる人:新たな取り組みで市場や仕組みを生み出したり、誰かの挑戦を後押ししたりする人がいます。そんな社会変革の“スイッチ”を入れる人に、狙いや展望を聞きました。

―ウォンテッドリーでは「シゴトでココロオドルひとをふやす」というビジョンを掲げ、それを軸に採用だけでなく、人脈づくりやエンゲージメント向上などの事業を拡大してきました。
 ワーディングに関しては自然発生的に社内で出てきたので、キャッチコピーの力みたいなものもあったように思います。ただ、もともと私が「生まれてきたからには全員がハッピーに生きるべきだ」という考えを大事にしてきた影響も結構強くあるんですよね。仕事が人生に占める割合は多いので、そこでハッピーにいられたらいいですよね。

―「ハッピーに生きる」を支える事業というと、生活を支える衣食住など他のテーマもあるのかなと思うのですが、そこでなぜ「仕事」にフォーカスしたのですか。
 リリースした頃のサービスは、いわば実名版「Yahoo!知恵袋」のようなQ&Aサイトでした。最初は「仕事」ではなく、「実名」にこだわっていたんです。ウォンテッドリーの立ち上げ前はフェイスブックジャパンにいたのですが、当時実名制がオンラインサービスの信頼性を向上させたことを実感していました。情報の変化というか、社会の変化を起こす事業ってかっこいいなと思い、それをベースにウォンテッドリーを形作っていきました。
 リリースしてからピボットを重ねていく中で、一番反響が大きかったカテゴリが求人、特に「趣味の仲間」とかではなく「仕事のための求人」だったんです。

―「仕事」にこだわった立ち上げではなかった、というのは少し意外でした。
 事業立ち上げ前に市場選定から入る起業家の方もいらっしゃいますけど、私は自分が使ってみて面白いと思うものをとりあえず作ってみた後で、市場にフィットするまでいろいろ試行錯誤し、強化しつづけてきました。その中で今の事業に行きついた。スタートアップをやっている若手の方々に質問を受けてもいつも話してるんですけど、あんまり深く考えすぎずにやったらいいんじゃないかなって。
 ただ、それに加えて原体験として、日本の保守的な採用市場や労働環境に対して「もっと多様な働き方もあっていいのでは」という思いがありました。起業家が自分の中に抱える嘘偽りないビジョンを掲げて、そこに共感する人が集まるという企業は強いと思うんですよね。
 立ち上げてから10年で労働市場を取り巻く環境は大きく変化しました。10年前は「いい仕事は歯を食いしばってやるものだ」というような価値観がまだ強くて。今は「仕事は面白くあるべき」という価値観がメインストリームになりつつあります。

ユーザー体験を重視

―ウォンテッドリーの特徴として、ユーザーの使い心地の良さを重視している点があると思うのですが、その理由は。
 エンドユーザーに届くものを作ろう、というのが1つの軸になっています。既存の大手求人サイトは企業の人事担当者を意識して作られているものが多いですが、当社ではエンドユーザーがいかに面白いと思える企業に出会えるかという点にフォーカスしています。それゆえに企業側にオリジナルコンテンツを作り込んでもらったり、今ではメジャーになりつつありますが(求職者と企業が気軽に情報交換する機会で合否判定もない) カジュアル面談などのユニークなシステムが生まれたり、といったことにつながったのかと思います。

―はじめから企業側にフォーカスしていたら、コンテンツ作りは手間になるからやめよう、といった判断になりかねないですね。逆に、コンテンツ発信ができる良さが響いた企業が集まり、現在は4万3000社 が利用登録しています。
 サービス開始当初、スタートアップ企業を中心に広がっていきました。スタートアップは調達した資金を採用に使う場合も多く、すごく馬力をかけます。コンテンツ発信、通年採用、カジュアル面談といった新しい採用様式を積極的に活用して成果を出していった結果、ユーザー基盤、企業基盤ができました。現在では中小企業や大企業の利用が増えてきました。

―ユーザー体験にフォーカスするためにどのような取り組みをされていますか。
 最終的にユーザーにとってもっとも価値があるのは企業とのマッチングが成立することだと思うので、それを軸にデータを見ながら改善するといった、データドリブンで進めています。ユーザーヒアリングなどは逆に迷走するように思うので、あまりやっていないです。

―データに基づいて改善されてきた点は。
 創業初期の例になりますが、はじめは人脈のつながりを意識していたので、求人を出した時に「知り合いの知り合い」しか応募できないといったような制限をかけていました。ただ、対象が広がらないので早々になくなりました。

―UIデザイン、ブランドの雰囲気などもユーザーの利用モチベーションにつながりますよね。ウォンテッドリーでは立ち上げ初期から意識されてきたのかなと思っています。
 重視してきていますね。フェイスブックにいたこともあり、やっぱりできるならグローバルスタンダードなものを作りたい、というのがずっとあって、それを追求しています。なかなか(サービスの)グローバル展開には難しい現実もあったりはするものの、UIや使いやすさの点には割と投資をしてきていますね。

―企業向けに機能を改善した点はありますか。
 これはある意味改悪だと思っているんですけれど、スカウト機能にメッセージテンプレートを入れました。企業からすると使いやすさが向上しますが、エンドユーザーにとっては(一律のメッセージが送られかねないので)体験悪化につながりかねず、トレードオフですよね。ただ一定そういった企業の声も取り入れてバランスを見ながらやっているという感じです。

―そのトレードオフで迷ったときはやはりエンドユーザーを優先させる、という価値観に合致する企業が結局のところうまく利用して結果を出し、継続に繋がっているのかなと思います。
 初期から6,7年継続利用してくださっている企業も多く、ウォンテッドリーを使って何百人も採用して事業を拡大し上場する、というパイオニアとして成長してきたことで、当社も成長してきたのかなという実感があります。

市場環境の変化がついてくる

―先ほども触れていましたが、ここ10年で転職環境は大きく変化し、キャリアや転職をオープンにするのが当たり前になってきました。ここが求人SNSとしてのウォンテッドリーの事業とマッチした部分は大きいように感じます。
 雇用の流動化はもう不可逆的なトレンドです。私は外資系出身なので比較的オープンに考えていたのですが、10年前はLinkedInなんかに登録するだけで転職すると思われるというか。そんな中で当時日本では数少ない、自分の職務プロフィールを公にして誰でもアクセスできるサイトがウォンテッドリーでした。それが今や、転職をオープンにすることや経歴をツリーにして公開することに抵抗なくなっていますよね。波が来た時に乗れたのかな、というのはあります。

―最近はビジョンやパーパスを重視するといった流れも出てきています。
 これは意外と古くて新しいんです。日本はずっとメンバーシップ型採用なので、過去から続く採用や企業の在り方に、ビジョンなどの考えがマッチしたのかなと思います。ビジョン、パーパスも昔は理念やフィロソフィーなどと言われてきたもので、普遍的な価値観です。一方で、今の20~30代はそこを明示的に大事にしてはいるので、中小企業などが打ち出す後押しになってきていると思います。

―以前であれば企業が理念を掲げて、そこに憧れる人であったりついていきたいと思ったりする人が集まって、企業側が選別する、という上下関係のスタイルだったと思いますが、今は企業が掲げた理念に対し、自分が持っているものを生かせるかなどを求職者側が判断する、というような対等関係に変化してきていますよね。
 そこはすごくありますね。少子化による売り手市場や、終身雇用が守れなくなっている点などからも、関係性が対等に変化してきている。一言でいうと米国化してきていると思うんです。
 またデジタルリテラシーが上がった影響もあるかなと。若者世代は情報収集能力がすごい上がってると思うんですよね。食事のお店探しでも、とにかく失敗しないように事前にいくらでも調べられる。採用や転職でも同様の傾向で、社内の情報開示を積極的に行っている企業が集まるWantedlyがその流れにマッチしている部分があると思います。

―転職だけでなく、エンゲージメント領域の事業も強化されています。ただ、エンゲージメントと転職って、微妙に相反しているような気がしまして…。企業にとっては従業員のエンゲージメントを高めると離職を防ぐことにもつながります。でも転職も同時に支援しているという。
 転職は必ずしも悪ではないと思っています。ライフステージによって求める価値が変わってきたりもするので、自分がより生かせる場所に行くっていうのが健全なのかな。大企業であればジョブローテーションがその役割を果たすかもしれませんが、規模が小さい企業ではどうしても限界がありますよね。
 また、アメリカとかって本当にみんなすぐに転職するんです。同様に、日本もこれから終身雇用がなくなっていくと思うので、それが前提となっている世界においてはエンゲージメントの方が課題になるのかと思います。

―トップとして走ってこられて10年ですが、ご自身の今後のキャリアについてどう考えられていますか。
 例えば売上が10億円くらいのときは本当に「スタートアップ」って感じですけど、今大体売上50億円ぐらい(※)になってきて、登録者数350万人、登録社数4万3000社 と増えてくると、以前よりも大きなプレーヤーと話したり、行政にも期待されたり、やれることの幅が広がっています。このレイヤーでまたいろいろ面白いことができるのかなと思っています。
 また、私自身は2社を経ていますが、どちらの企業でもマネジメント経験がなく我流でここまでやってきていて。マネジメントとか組織設計とか奥深いなっていうのは最近思います。世の中にたまっているナレッジなんかをもうちょっと実践してみたら学びもありそうだな、日々結構まだ学びが多いなと思ってます。

―事業として、新たにチャレンジしてみたいことなどはありますか。
 領域をガラッと変えてやりたいみたいなところまでまだ行ってはなくて。既存事業の周辺領域をより機能強化していきたいです。現在300万人以上ユーザーがいますが、そこをさらに増やしていって、エンゲージメント領域のカバーレッチを上げる。それだけ聞くとちょっと退屈な話に聞こえるかもしれないですけど、toBの開拓も難易度が低いわけではないので、チャレンジングではありますね。
 また、新卒採用でもエンジニアやプログラマー、新規事業を立ち上げたことがある学生など、高度人材と呼ばれる層へのリーチがトレンドとして大きくなっています。ウォンテッドリーはそういったユーザーがベースとして多く、強みではあります。ここ2,3年で新卒一括採用を変えていくといった話が多く、マスに訴求するよりも、いかに狙った人材を一本釣りするか、という方向になりつつあります。ウォンテッドリーはこの流れの中にはいると思っているので、うまく時流を捉えている部分を拡張していければいいなと思います。

―仕事に集中するためにスイッチを入れるルーティーンなどはありますか。
 始業時にコーヒーを飲むことです。コーヒーにこだわっているわけではないんですが、カフェイン量を厳密にコントロールしていて、一日一杯しか飲まないと決めてるんです。なので飲むと結構ブーストしますね。
 最近子どもが生まれたので、朝子どもをナニーさんに預けて、コーヒーを飲んで、仕事にフォーカスするという感じです。昔はあまり時間も関係なく仕事していましたけど、今は物理的に時間が決まっているので、プライべートと仕事が強制的に切り替わっている感じではあります。ただ仕事のゴールデンタイム自体はあまり変わっていなくて、6時間くらい一気に集中するというスタイルで仕事をしています。

(※)2022年度売上高は前年度比25%増の約45億円

日刊工業新聞 2023年01月11日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
ニュースイッチ立ち上げて間もない2015年頃、仲CEOの寄稿やインタビューを掲載。そこから7年ほど経過して改めてのインタビューです。過去記事を読み返すと、変わらない信念や考え方がわかります。そこに賛同する企業や働く人が集まって、新しいうねりになっていったのだなと実感しました。

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新たな取り組みで市場や仕組みを生み出したり、誰かの挑戦を後押ししたりする人がいます。そんな社会変革の“スイッチ”を入れる人に、狙いや展望を聞きました。

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