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「ぐでたまの感触」を再現した技術、栗本鐵工所が製品化した理由

「ぐでたまの感触」を再現した技術、栗本鐵工所が製品化した理由

「ジャパン アミューズメント エキスポ2023」のデモンストレーション

「二次元のキャラクターを触ってみたい」―そんなアイデアから生まれたのが、栗本鐵工所の「サワレル」プロジェクト。人差し指を「Tapユニット」と呼ばれるデバイスに装着し動かすと、キャラクターを触った感覚が指に伝わる。デバイスの操作によってスマートフォンのアプリ上でキャラクターが反応する。
 水道管などのインフラ関連や産業機器の製造を中心に100年以上続いてきた老舗BtoB企業が、このプロジェクトを世に送りだした狙いを聞いた。

ぐでたまを「触れる」?

2023年2月、アーケードゲームなどの展示会「ジャパン アミューズメント エキスポ2023」の一角に長い行列ができていた。来場者の目当てはサンリオの人気キャラクター「ぐでたま」を触れる体験だ。ぐでたまをイメージした感触がTapユニットを通じて指に伝わると、来場者からは驚きの声とともに笑顔が見られた。

アプリ内のぐでたまをちょうどよくマッサージすることに苦戦する来場者

この触感を表現するベースは、栗本鐵工所の開発した新素材「Soft MRF」。磁気を通すことで硬さが変わる鉄の流体で、地場の強さによって硬さの表現を細かく設定でき、瞬時に硬さを変えられる点が特徴だ。TapユニットはこのSoft MRFを組み込んだデバイスで、アプリのゲームと組み合わせることでキャラクターによって触感を変えたり、触ることでゲームを進行させたりといった展開をしている。

ゲームの画面イメージ ©2023 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. L637789 S/D・G

今回ぐでたまとコラボレーションした背景について、同社技術開発室MRFプロジェクトの赤岩修一プロジェクトマネージャーは「触ってみたいキャラクターの上位にランクインしていたことや、SNSでも人気が高いこと、そして(触ってみたら)面白そうという理由からオファーしました」と話す。
 サワレルは17日からマクアケにて販売を開始。販売セット数は100個を予定しており、価格は消費税費込み1万円(早期購入の場合割引あり)。

技術は面白いけれど、どう使う?

Soft MRFは09年に研究開発をスタート。既存事業にはない新しい市場開拓を目指しさまざまな分野の事業者や企業と意見交換をしていく中で、触覚(ハプティクス)技術への活用が1つの柱になった。アミューズメント施設での釣りゲームで、魚の動きを再現するデバイスに組み込まれるなど、エンターテインメント分野でいくつか採用につながった。

しかし、これまで関わりのなかった分野への採用実績を増やしていくのは簡単ではない。「技術そのものは面白いけど、使いどころが分からないという声もありました。それならば、自分たちで製品をつくり実績を作るしかない、そして注目されるには面白いものを作る必要があるということで、サワレルの開発に着手しました」(赤岩マネージャー)。
 今回の「架空のキャラクターに触る」というアイデアは、5年前に学生インターンのイベントで生まれた。そこからデバイスの開発を進めていたが、コロナ禍によってリアルでの発表の場がなくなったことにより停滞。22年から、展示会再開の兆しを受けてデバイスの改良やアプリの開発に着手し、リリースに向けて一気にアクセルを踏み込んだ。

プロジェクトメンバーは技術開発を担当してきた社員が中心だが、製品開発だけでなく、営業やマーケティングも自分たちで行う必要があった。そこで、他社の新規事業プロジェクトでも採用実績の多いマクアケを利用することにした。赤岩マネージャーは「宣伝とテストマーケティングを兼ねられ、購入者の声が聞ける」と期待を込める。

一般消費者向けのデバイス・アプリのゲームや、クラウドファンディングの活用など、既存事業とは異なり、社内では前例のないことばかり。しかし、「新しいことにチャレンジしようという、会社全体の機運が高まっていた時期に合っていた。経営トップが事業を理解し、節目ごとに後押ししてくれた」と総合企画室コーポレートコミュニケーション担当部長の八木徹氏は振り返る。
 社内の認知も高まっており、「20~60代の社内モニターを募集し実証を行った際に、応援のメッセージをもらったこともあった」(赤岩マネージャー)という。

今後、サワレル自体は販売していく計画だが、他のキャラクターや企業との協業や販売協力、提供などは今回の結果を受けて検討をしていく。サワレルを呼び水にSoft MRFの販路や顧客を広げ、BtoB案件を引き込む構えだ。「今はいろいろな場所に可能性の布石を打っているような状態。どのような形で、どこに出て行くかを見極める勝負所」と赤岩マネージャーは意欲を見せる。

コロナ禍により遠隔操作やVR、メタバースへの注目が急速に高まり、ハプティクス技術活用の場が広がりつつある。動きの早い分野だからこそ、ユーザーの反応を受けてすぐに改良を重ねていける自社製品での展開が有利に働くことが予想される。

ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
デモンストレーションを体験しましたが、ぐでたまは思ったよりも弾力があり、「あんなにいつもダラダラしているのに…」とちょっとした衝撃を受けました。最初は今よりも柔らかかったそうですが、開発プロセスでサンリオと触感のすり合わせを重ね、今の硬さになったとのこと。触り心地は何種類もあり、柔らかなものだけでなく、卵の殻を割る時のコツコツとした感じも再現されています。とはいえ言葉や動画ではなかなか十分に伝えることができないのが触感。ぜひ試していただきたいです。

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