ニュースイッチ

人手不足の“切り札”、成長鮮明「協働ロボット」の進化

人手不足の“切り札”、成長鮮明「協働ロボット」の進化

ファナックは世界初となる可搬質量50kgの協働ロボットを公開した

協働ロボットの存在感が増している。国際ロボット連盟(IFR)によると、2021年に設置された協働ロボットは20年比50%増の3万9000台(世界)に達した。伝統的な産業用ロボットに比べると市場規模は小さいものの、成長傾向は鮮明だ。安全柵が設置不要で、人と同じ空間で作業できる協働ロボットは深刻化する人手不足を解決する“切り札”との呼び声も高い。ロボットメーカーも協働ロボットの機能を進化させ、高まる需要に応える姿勢だ。(増重直樹)

5月中旬、ファナックの本社(山梨県忍野村)で開かれた新商品発表展示会。来場者の目をくぎ付けにしたのが、可搬質量50キログラムを誇る世界初の協働ロボット。同社はもともと業界で最も可搬能力の高い35キログラム可搬の協働ロボットを持っており、その記録を自らが塗り替えた形となる。

特徴の一つが既存の協働ロボット「CR―35iB」の機構部を変更せず、ソフトウエアのアップデートによって高可搬タイプに対応できる利便性だ。顧客はロボットの新規購入などのコストが発生しない。安部健一郎常務執行役員は「協働ロボットを浸透させる上で『使いやすさ』『扱いやすさ』『選びやすさ』の視点が重要」とその意図を明かす。スマートフォンの基本ソフト(OS)更新と同じくらい容易に継続して機能を拡張できる仕様は、前述の視点を充足できるというわけだ。

物流拠点で使われる安川電機の協働ロボット(SMC提供)

高可搬機種の投入は近年の協働ロボットのトレンドでもある。安川電機は22年8月、可搬質量10キログラムと同20キログラムの協働ロボットのラインアップに30キログラム対応機種を加えた。協働ロボットのパイオニアであり、5万台以上の累計販売実績があるデンマークのユニバーサルロボット(UR)も同20キログラムの機種を追加、間もなく日本市場で出荷を始める。

ロボットメーカーが積極化する高可搬対応の背景には何があるのか。理由の一つは協働ロボットが社会に誕生し普及するプロセスで、当初は想定していなかった用途での需要が生まれたことだ。とりわけ、危険かつきつい仕事が敬遠されがちな環境下で、人力では業務負荷が大きいワーク(対象加工物)をロボットで扱いたいとのニーズが顕在化し始めた。

ユニバーサルロボットはパレタイジング用途などを想定し可搬質量20kgの機種をラインアップに加えた

UR日本支社(東京都港区)の山根剛代表は「(可搬質量20キログラムの協働ロボット投入により)重量物のパレタイジングや加工機へのワーク脱着など、従来は提案できていなかった作業領域の自動化を提案できる」と意気込む。今回、ファナックが実施する高可搬対応も事業用トラックのタイヤ搬送や、電気自動車(EV)シフトに伴い需要増が見込まれる車載バッテリーの中間組み付け工程などで利用を想定している。

ただ伝統的な産業用ロボットであれば数百キログラムを持てるパワーを有し、安全柵で囲み運用する分、動作スピードも速い。一見、重量物搬送に協働ロボットを活用するメリットは薄そうに見える。この点について、ファナックの安部常務執行役員は「(伝統的な産業用ロボットで)専用機になることを嫌がる声がある。またロボットの周辺を人が横切る可能性がある現場では協働ロボットが期待される」と多様なニーズの存在を説明する。

成長も課題残る-「受容性」足りず根強い不安

協働ロボット市場の見通しは明るい。矢野経済研究所(東京都中野区)は世界で高まる自動化ニーズを背景に、協働ロボットの世界市場規模が32年に21年比7倍超の約1兆538億円に拡大すると予測。参入メーカーの増加による関連部品のコスト減などで、協働ロボットの価格は22年比で3割前後下がる見通しも示す。ユーザーはメーカーの選択肢が広がり、コスト面での導入障壁が低下する好影響が見込まれる。

高い成長率が見込まれる協働ロボットだが、現時点の普及度合いについては、業界で反応がわかれる。ロボットメーカー幹部は「国内は欧米や中国より普及が遅いと言われるが、かなり採用され始めた印象だ。人手不足が深刻化し導入をためらう余裕がないのかもしれない」と分析する。一方、伝統的な産ロボに比べ誕生から日が浅く、柵で囲われていないゆえに、ユーザー側の「社会的受容性」の形成が十分ではないと見る向きもある。

例えばセーフティレーザースキャナーを活用した減速や停止の仕組みを提案しても、接触時の不安が拭えなかったり、万が一の事故における責任の所在を気にしたりする動向がある。加え、製造業などで実施される職場内を巡回し危険箇所を指摘・改善する安全衛生パトロール活動において、協働ロボットがやり玉に挙げられるケースも存在する。こうした指摘への苦肉の策として協働ロボットを安全柵で囲い運用するユーザー側の工夫もあるが、「使い勝手が悪く想定した成果が得られないため、再販率は必然的に低くなる」(大手ロボットメーカー首脳)と指摘する。

また、協働ロボットを含む産ロボ全体に通ずる問題点として、大企業よりも人手不足が深刻な中小企業にロボットが行き届きにくい構造課題がある。ロボットシステムを組み上げるシステムインテグレーター(SIer)自体も人的資源や作業時間が限られる中、投資規模が大きく継続的なロボット導入が期待できる企業の案件を手がけたい。その場合、大企業の案件が優先順位として高くなりがちだ。

スイスのABBは従来製品より動作速度を6倍に高めた協働ロボットを発表。作業者の安全確保のため産ロボに比べ動作速度が遅い弱点を補った

ABB(同品川区)の中島秀一郎社長は「日増しに労働人口が減少し自動化需要が高まる一方で、ロボット技術を活用した自動化を実現できる人材が不足していることは大きな問題」と述べる。

協働ロボットは設置面積が省スペースで済み、台車などに搭載すれば生産現場のレイアウト変更にも柔軟に対応できる。加え、作業者がアームを直接動かし動作を覚えさせる「ダイレクトティーチ」といった教示機能も標準仕様となってきた。人手不足対策が待ったなしの社会課題となった昨今。メーカー側の技術開発に限らず、官庁や認証機関、保険会社などが一体となった、ユーザーが安心して導入できるユースケースの積み上げや、SIer人材の育成が継続課題と言える。

日刊工業新聞 2023年05月26日

編集部のおすすめ