東大はIBM・グーグル、理研はインテル…次世代コンピューテイングで日米大型連携が加速する背景
日米で次世代コンピューティングの大型連携が加速する。東京大学は米IBMや米グーグル、理化学研究所は米インテル、広島大学と東北大学など日米11大学は米マイクロンと覚書(MOU)を結んだ。G7サミット(先進7カ国首脳会議)を機に日米の協力関係の深化を発信した。内容は量子コンピューターや人工知能(AI)、先端半導体と、いずれも経済安全保障に関わる重要技術だ。技術開発と人材育成を進め、新産業創出につなげる。(小寺貴之)
広島大など11大学・マイクロン 多様な半導体人材育成
広島大学や東北大学、米パデュー大学などの日米11大学は米マイクロンとの日米半導体連携パートナーシップに参画する。21日に永岡桂子文部科学相とアントニー・ブリンケン国務長官、各大学長によってMOUが結ばれた。このパートナーシップは半導体人材育成が目的だ。教育カリキュラムの先進性が評価された11大学が選ばれ、大学間で交流プログラムを進める。性別や地域などの多様な半導体人材を育成する。
この人材多様性は、世界に分散している半導体産業で持続的に技術革新を起こしていくために欠かせない。日米交流はお互いの教育カリキュラムを見直し強化する絶好の機会になる。
中でも広島大は国立大学の半導体教育研究拠点として最も長い歴史を持つ。マイクロン広島工場と連携し、半導体人材の高度化をはかる。
東大・IBM・グーグル 量子技術の開発で起業家教育を展開
東京大学は量子コンピューター研究について米IBMや米グーグルと大型共同研究を始める。東大とIBM、グーグル、米シカゴ大学で二つのパートナーシップに調印した。東大とシカゴ大、IBMの3者で量子技術を開発し、学生や研究者の人材交流、起業家教育などを展開する。
東大はIBMから10年間で5000万ドル(約69億円)規模の投資を受ける。この予算で量子コンピューターの技術開発や量子ソフトウエアの開発、用途開拓を進める。ハードとソフトの技術開発、人材育成を一体で進める。
グーグルとは東大、シカゴ大の3者で量子コンピューター研究を進める。グーグルから両大学に10年間で併せて最大5000万ドル規模の出資が予定されている。グーグルの量子コンピューター研究支援と、学生へのキャリア支援や起業家教育が盛り込まれた。
いずれも技術開発と並行して、若手研究者のトレーニングや起業支援を展開する。量子技術のエコシステム(協業の生態系)を日米で作る。
理研・インテル スパコン・AI研究
理化学研究所と米インテルはスーパーコンピューターやAIに関わる計算機技術の開発と、シリコン半導体を用いた量子コンピューター技術の開発、半導体製造子会社のインテルファウンドリーサービス(IFS)の先端半導体の試作環境提供の3項目についてMOUを結んだ。
IFSの試作環境によって、理研は最先端プロセスでチップを製造できるようになる。特に、シリコン系の量子コンピューターは半導体製造プロセスで量子プロセッサーを製造できる利点がある。量子ビットを集積し大規模化が可能になる。ただ研究には先端半導体の製造技術が不可欠だった。日米連携によって研究が大きく前進する。
スパコンやAI分野でも共同研究を立ち上げる。どちらも計算量が膨大になっており、消費電力を抑えながら計算する技術が重要になる。理研はアルゴリズムやアーキテクチャーなど先端技術を抱えるものの、実際にシステムを構築し実証する部分や社会実装が課題だった。スパコン「富岳」の次世代機の開発に向けて大きな前進になる。