“アカデミックマフィア” に挑む…文科省の新事業は日本人をトップサークルに押し上げられるか
日本人研究者を世界のトップサークルに押し上げるプロジェクトが動き出す。文部科学省の先端国際共同研究推進プログラム(ASPIRE)として6月には公募が始まる。狙うは“アカデミックマフィア”たちが占めるポジションだ。年間最大1億円の予算で欧米トップ研究者との共同研究を組成し若手人材を送り込む。財政面からはこれが最後とも言われる。日本の凋落(ちょうらく)が叫ばれる中、巻き返しなるか。(小寺貴之)
「どの国際学会にも“マフィア”はいる。これまでは研究者の個人プレーで関係を築いてきたが、施策として押し上げる」と科学技術振興機構(JST)の橋本和仁理事長は説明する。JSTと日本医療研究開発機構(AMED)で501億円の基金事業として、ASPIREが始動する。
5年間で最大5億円の支援になるため、今後数年間で100テーマ以上が採択される計算だ。大学院生や若手を連携先の研究室に送り込んでトップレベルの研究を経験させる。研究成果も輩出する人材もトップレベルを求める。こうした人に投資する大型予算はこれまでなかった。橋本理事長は「すでに財務当局からは『次はない』とクギを刺されている」と苦笑いする。
ASPIREの組成にはJSTが一役買った。2億円の理事長裁量経費を全て投じて事前に試行事業を立ち上げた。予算は小ぶりだが、43件の応募があり7件が採択された。この選考を通して応募分野の傾向や共同研究の形態を検証した。
運営統括を務めた宮野健次郎東京大学名誉教授は「応募の4割、採択の8割が米国との連携だった。これまで日本人研究者がどの国と関係を築いてきたかがそのまま現れた」と説明する。提案の質で選ぶと米国に集中する。これを各国均等になるようバランスをとるか、質を選び続けるかは政策判断になる。
また当初は日本と相手国のトップ研究者同士の連携を作り、研究室の若手と交流させる構想だったが、チーム型応募や中堅若手用の公募枠を設けた。民間出身の研究者など、論文数では突出していなくても優れた研究者に門戸を開く。
課題は重要業績評価目標(KPI)設定と先端企業との連携だ。目標はトップサークルへの日本人研究者を押し上げることだが、達成には時間がかかる。その前段階の若手の要職就任数や国際学会での評価など、段階的にKPIを設定することになる。ただ5年間で達成できる目標となると設定が難しい。
そして世界のトップ研究者は必ずしも学術界にいるとは限らない。人工知能(AI)や量子などは、基礎研究もベンチャーや巨大IT企業がけん引する。米国ではテックベンチャーと大学の共同研究は広くみられるが、そこに日本人が加わる例は稀(まれ)だ。橋本理事長は「民間企業との連携も制度上は採択できる。日本の研究者がどれだけ食い込めるか」と説明する。日本としては海外企業で進む研究が最もブラックボックス化している。頭脳循環の拡大が望まれる。