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藻類を「燃料・医薬品」に、産学研究プロが本格的に始まる!

藻類を「燃料・医薬品」に、産学研究プロが本格的に始まる!

三菱化工機が新設するフォトバイオリアクターと同種の実証装置(川崎製作所内)

脂質を多く含む微細な藻類「ナンノクロロプシス」を大量に培養し、抽出した脂質を燃料や食品などとして使おうという産学の研究プロジェクトが、本格的に始動する。大量培養の技術を実証するためのプラントを、三菱化工機が5月末に同社川崎製作所(川崎市川崎区)内に整備し、2032年3月末まで研究に取り組む。同社の水素製造装置から排出される二酸化炭素(CO2)を光合成の“原料”として活用する仕組みも整え、脱炭素化への貢献を目指す。(編集委員・宇田川智大)

この研究は科学技術振興機構(JST)が運営する「共創の場形成支援プログラム(COI―NEXT)・共創分野本格型」に採択された産学連携の枠組み「バイオDX産学共創拠点」における取り組みの一環。三菱化工機や広島大学、東京工業大学マツダ島津製作所、浜松ホトニクスなどが参画する「バイオDX産学共創コンソーシアム」が実施主体となり、微細な藻類や植物を利用して有用物質を生産するための技術基盤を確立する。

新設する実証プラントは光合成を行う生物を、ガラス管内の閉鎖された環境下で培養するフォトバイオリアクター。外気に触れないため、飛来物などが混入する懸念がない。

三菱化工機はこれと別に、容量が300リットルの閉鎖系フォトバイオリアクターを川崎製作所内に設け、藻類を培養する実証試験を、21年の初めから独自に行っている。同社が開発した小型の水素製造装置「ハイジェイアA」で都市ガスから水素を製造する際に発生するCO2を注入し、光合成の原料に使うといったアイデアも採り入れた。CO2を排出せずに有効利用する「カーボンリサイクルを実現する」(三菱化工機の谷口浩之研究開発部長)狙いだ。

三菱化工機の水素製造装置「ハイジェイアA」から排出されるCO2を利用して藻類の培養効率を高める

今回の実証では同じく容量300リットルの閉鎖系バイオリアクターを5月末までに新設し、ナンノクロロプシスの培養に適した環境を整える。水素製造装置から排出されるCO2を使い、培養効率を高める仕組みも設ける。東工大発ベンチャー、ファイトリピッド・テクノロジーズ(横浜市緑区)の代表取締役最高経営責任者(CEO)で、実証事業の研究リーダーを務める東工大名誉教授の太田啓之氏は「CO2を多く排出する工場地帯の近隣に、このような培養装置を置くことに意義がある」と強調する。

より大規模な増殖に適した「レースウェイ水槽」との2段階培養も検討する。

事業化にハードル 製造コスト低減不可欠

ナンノクロロプシスは体内で重要な働きをするオメガ3脂肪酸、とりわけエイコサペンタエン酸(EPA)を多く含有するほか、自動車などの液体燃料に転用できる油脂も豊富に含む。ただ一般にこのようなバイオ燃料を実用化するには、製造コストを現状の10分の1以下に抑える必要があるとされ、コスト低減に向けた生産効率の改善が欠かせない。

このため当面は燃料でなく、必須脂肪酸のEPAや、EPAの代謝産物としてつくられる生理活性物質の量産に必要な培養技術の確立に力点を置く。EPAは体内で産生されないため、高額でも栄養補助食品や医薬品の原料として、多くの需要が見込まれ、事業化へのハードルが比較的低い。EPAやその代謝産物の生産に最適な仕組みを目指す中で、製造コストの低減にも取り組み、この成果を踏まえて燃料としての実用化に挑戦する。

具体的なコスト低減策としては、島津製作所がオメガ3脂肪酸の蓄積量を、自動判定できる技術の実用化を目指すほか、浜松ホトニクスも培養中の細胞の健康状態を、リアルタイムで検知できる技術の実装に取り組む。こうして生産効率が高まれば、化石燃料の代替品として有力な選択肢になる。研究リーダーの太田氏は「さまざまな技術の導入で、従来は不可能だった高付加価値の物質や燃料の生産に取り組みたい」と意気込む。

日刊工業新聞 2023年05月12日

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