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FCトラックの実用化が見えてきた、量産でコスト減急ぐ

FCトラックの実用化が見えてきた、量産でコスト減急ぐ

全ト協会員や国会議員らがFCトラックの良さや課題を知り、意見交換した

物流企業の脱炭素化を背景に、トラックのパワートレーン(駆動装置)の多様化が進む。一足先に実用化されている電気自動車(EV)トラックは充電時間の長さや、航続距離を伸ばせないことが課題で、その弱点を補えるとされる燃料電池(FC)トラックの実用化も見えてきた。トラックメーカーは、広く認知され始めたEVトラックに比べ、やや認知度の低いFCトラックを訴求し、量産化でコストメリットを出す体制の構築を急ぐ。(大原佑美子)

「2トン(貨物を)積んだ状態で試乗したが実走行にも耐えられる。非常に良い。補助金を活用し導入を検討したい」―。5月初旬、経済産業省などが開いたFCトラックの試乗会で、全日本トラック協会環境対策委員会副委員長で武田運輸(札幌市東区)の武田秀一社長は試乗後、こう語った。

同社は北海道一円を対象に、建設資材や大手飲食企業の配送などを担う。ディーゼルトラックをハイブリッド車(HV)に順次切り替えるなど脱炭素に取り組むが、冬場にマイナス20度Cになる寒冷地にEVは向かない。このためFCの導入も視野に入れているという。

同試乗会は全日本トラック協会会員、国会議員らがFCの良さや課題を知り、意見交換する場として設けられた。トヨタ自動車いすゞ自動車などが共同出資する商用車企画子会社のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、東京都文京区)が主催し、トヨタ製FCスタックを積んだいすゞ車両に、議員や運送業者の社長ら約50人が試乗した。

FCトラックに試乗する片山さつき参議院議員

試乗車両はいすゞの小型トラック「エルフ」をベースにFC、パワーコントロールユニット(PCU)、水素タンクなどを搭載した改造車。車両重量4・3トン、最大積載量2・95トンの冷凍・冷蔵車の仕様だ。1回15分の水素充填で約260キロメートル走行可能。急速充電でも満充電に1時間以上かかるEVトラックに比べ優位だ。またFCトラックは自車発電で直接電力を得られるため、EVトラックに比べ高いエネルギー効率も特徴だ。

短い充電時間と長距離を走れる利点を生かし、CJPTのFCトラックは大手コンビニエンスストア配送などで社会実装が進む。コンビニ向けは夜間でも配送するため、充電時間の短いFCトラックが向く。CJPTは2024年末までにFC車両を300台作ることを計画している。

課題は「現段階でディーゼル車に比べ10倍いかないくらい」(福永恒太郎トヨタ自動車CVカンパニーCV製品企画ZM主査)という車両コストだ。トラックユーザーが「(環境車に対する)補助金を活用できる間に台数を多く出し、原価を下げないと市民権を得られない」(同)。

水素ステーションの少なさも課題だ。CJPTは自治体と連携し、物流センターなどが多い場所に水素ステーションとエネルギーマネジメントシステムを整備し、周辺の事業者が数台ずつFC車両を保有するパッケージ提案なども見据える。

試乗会に参加した水素社会推進議員連盟の小渕優子会長は「トラック協会など現場の皆さんと意見交換し、水素社会の実現に力を合わせていきたい」と話した。国・地域の電力事情や燃料充填箇所などで最適な車両は異なる。官民一体となって互いを知り、最適解を見いだす取り組みが、より一層求められている。

日刊工業新聞 2023年月5月23日

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