ニュースイッチ

搭載量5倍・コスト10分の1、トヨタが水素社会へ実証する「貯蔵モジュール」の全容

搭載量5倍・コスト10分の1、トヨタが水素社会へ実証する「貯蔵モジュール」の全容

ゴルフ場に設置した水素貯蔵モジュール(左)。大会中継用のFCV(右奥)に水素を充填

トヨタ自動車は水素を安全・安心に運び、使うため「水素貯蔵モジュール」の実証に乗り出した。近隣に水素ステーションがない場合でも高効率、低コストで運用できるようにすることを目指す。水素を運搬し利用するには現状、法的枠組みがない。トヨタは経済産業省や高圧ガス保安協会(KHK)から特別認可を取得し、実証実験を進める。水素社会の実現や基準化に向け、着実な1歩を積み重ねる。(名古屋・川口拓洋)

トヨタは4月に名古屋ゴルフ倶楽部(愛知県東郷町)で同社初となる水素を運び、使う実証実験を行った。水素搭載量が約10キログラムの貯蔵モジュールを同ゴルフ場に設置し、男子ゴルフツアーの大会を中継したテレビ局の燃料電池車(FCV)に充填した。

「水素貯蔵モジュールは、近くに水素ステーションがない港湾や山岳地などで働くモビリティーの燃料源として想定している」と話すのは、トヨタ水素製品開発部水素製品開発室の担当者だ。カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向け、水素活用の期待は高まるものの、水素ステーションの設置は都市部に限定されている。地方などで水素を活用するには運搬が避けて通れない。

運搬容器として金属製のタンクがあるが、重い上に対応する圧力も低いのが課題だった。

トヨタにはFCV「MIRAI(ミライ)」で培った樹脂製タンクがあり、これにセンサーや自動遮断弁などの安全機能を組み合わせたのが水素貯蔵モジュールだ。水素搭載量は4キロ―36キログラムまでの4種類を用意。タブレット端末などで水素漏れなどの異常を監視したり、水素ステーションから直接充填したりする機構も持つ。既存の金属製タンクに比べ水素搭載量は5・5倍。トレーラー型が主流の移動式水素ステーションに比べコストは約10分の1に低減できるという。

水素製品開発室の別の担当者は「安全を担保しながらも、合理化できるところを合理化する」とさらに実証を進める構えで、今後の法整備や基準化に期待する。21年10月には法律が未整備のため、運ぶ・使うともに実現できなかったが、22年9月に特別認可を取得し運ぶことが可能になった。

1年半かけて水素の運搬と使用の両方にこぎつけるなど門戸は開きつつある。「安全・安心な水素を広めるために、関係各所とコミュニケーションを重ねたい」(トヨタ)と前進を誓う。


【関連記事】 トヨタグループも注目、熱源を操り省エネを実現する愛知の実力企業
日刊工業新聞 2023年05月03日

編集部のおすすめ