水切りラック、ピザ窯…自動車部品メーカーが自社製品に挑む理由
自動車産業が盛んな愛知県では、売り上げのほとんどを自動車産業向けが占める中小企業も少なくない。電気自動車(EV)化の流れの中で、ガソリン車では3万点ある部品点数は減り、部品の共通化で選ばれなければ受注もなくなってしまう。事業継続のための新たな分野の開拓だけでなく、持ち前の技術を生かした最終製品の製作に乗り出す企業の成果が出てきた。(名古屋・津島はるか)
石川製作所 折りたためる水切りラック
石川製作所(愛知県東郷町、荒川亨社長)は「折りたためる水切りラック」を、クラウドファンディング(CF)サイト「マクアケ」で6月に発売する。長年培ったフォーミング加工の技術力を生かしたバネ構造をしており、収納時には縮めることで小さくできる。消費税抜きの市場想定価格は5000円。マクアケでは100万円の売り上げを目指す。
使用時の幅は360ミリメートルだが、30ミリメートルまで縮めることができる。収納時に場所をとらないため、キッチンの狭い独り暮らしでの使用や、サブラックなどでの使用を想定。また、重量が250グラムと軽い上、材料にステンレスの線材を使用しており丸ごと水洗いもできるので、荒川和哉専務は「キャンプ用品としても提案したい」と意気込む。
同社はフォーミング加工を得意とし、ホースクリップや特殊鋼バネを手がける。自動車関係部品が約9割を占め、電気自動車(EV)化で部品点数が減ることから自社製品の開発に乗り出した。
自社で作り出せる機能の中から、線材のフォーミング加工による「バネの伸縮機能」と、線材にステンレスを用いることで「錆びにくく洗える機能」に焦点を当て、キッチン用品を手がけることを決めた。社外から工業デザイナーも招き、「スプリングメイクプロダクト」と称したプロジェクトチームを結成し開発を進めてきた。
今回の製品は自社製品ブランドの第1弾として発売。同事業のための設備投資も計画中で、今後も自社ブランド製品を開発し経営の新たな柱とする。
イセ工業 オーブン機能付き薪ストーブ
同じく6月、イセ工業(愛知県安城市、秋庭新吉社長)はマクアケで「アウトドア用オーブン機能付き薪ストーブ」を発売する。自動車のマフラーの製造技術を駆使した400度Cのオーブン室で、おいしくピザを焼けるという。消費税抜きの価格は6万円を想定。年間100台の販売を目指す。
薪を入れる部分の下に設けた円形のオーブン室は“ピザがおいしく焼けること”にこだわった。ピザを入れやすいように間口は広くし、庫内は19センチの冷凍ピザがぴったり収まるサイズだ。また、オーブンで焼き上がったピザをストーブの天板に置くことで「生地をカリカリにできる」(秋庭社長)。持ち運びがしやすいように脚は折り畳みが可能で、煙突の向きも自在に変えられる。
開発段階での課題は、ストーブの熱をオーブン室に効率良く伝えて400度Cまで庫内温度を上げることだった。自動車用マフラーの設計で培った技術を生かし、配管を絞って内部を流れる空気の流速を上げたり、配管の中にひねった板を入れ込んだりすることで高温のオーブン室を実現した。
同社はパイプ材の曲げ加工を得意とし、マフラー部品など自動車用部品の試作開発や少量品を手がける。売り上げの約9割を自動車向けが占めるため、数年前から新たな事業の柱として自社製品を開発し販売することを計画していた。今回はその第1弾。秋庭社長は「社員だけでなく、この製品も使ってもらうことで顧客のモチベーションも上げたい」と意気込む。マクアケでの発売後、冬頃には自社ECサイトも新設し販売により力を入れる。
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