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経済効果125兆円、「ネイチャーポジティブ型」の可能性

環境省は自然を回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」型経済に移行すると、2030年に国内で47兆円のビジネス機会を創出し、125兆円の経済効果をもらたす可能性があると試算した。違う計算ではビジネス機会を最大104兆円と推定した。23年度中にまとめる「ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)」に最終的な経済効果を盛り込み、生物多様性の回復を経済成長につなげる姿を示す。

日本の2030年のネイチャーポジティブビジネス機会額

ネイチャーポジティブ経済をめぐっては20年、政財界のリーダーが集う世界経済フォーラム(WEF)が10兆ドル規模のビジネス機会と3億9500万人の雇用を創出するとの試算を公表した。これを受け、環境省の「ネイチャーポジティブ経済研究会」が、WEFの数値を基に国内の経済効果を計算した。

ビジネス機会の47兆円は土地の回復費用などを算定式とし、日本の統計情報を織り込んで計算した。WEFはネイチャーポジティブ型ビジネスとして68種を特定している。その中から日本で該当する53種を選び、導きだした。また、47兆円を基にすると78兆円の経済波及効果が見込まれ、全体で125兆円の経済効果を期待でき、930万の雇用を支えると推計した。

最大の104兆円は世界のGDPに占める日本の比率から算出した。国内の各業界の世界市場における影響力も考慮した。内訳は食料・土地・海洋関連が36兆円、インフラ・建設環境システムが32兆円、エネルギー・採掘が36兆円だった。

またWEFは、自然の損失によって世界のGDPの半分以上に当たる44兆ドルが失われると恐れがあると報告している。環境省の研究会も分析を試みたところ、日本のGDPの12%が自然への依存度が高いと分かった。

ネイチャーポジティブのビジネス機会額とほかの環境ビジネスへの関連性

ネイチャーポジティブは減り続けていた自然を回復へ反転させる意味で使われており、22年末の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で30年までの世界目標となった。「パリ協定」で温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標が経済活動の指針となったように、ネイチャーポジティブも企業経営に影響を与えそうだ。

WEFが特定した68種のビジネスには農業や養殖、林業のほか、バイオ燃料や代替肉、食品廃棄物の削減、住宅の共同利用、建物のエネルギー効率化、再生可能エネルギーなどが含まれる。環境省の研究会はビジネス機会の47億円のうち気候変動対策に9兆7000億円、循環経済に25兆9000億円が強く関連しているとも分析した。

同省は推計した経済効果の実現を目指し、研究会で戦略を検討している。気候変動対策や資源循環にも相乗効果があるネイチャーポジティブ経済の姿を描き、産業界にビジネス獲得を促す。

日刊工業新聞 2023年月4月11日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
ネイチャーポジティブで期待できる経済効果、思ったよりも大きいのではないでしょうか。脱炭素社会への転換に向けて今後10年で官民合計150兆円を投資すると政府は言っています。ネイチャーポジティブは地方に密着したビジネスになると思います。脱炭素との相乗効果で盛り上げてほしいです。

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