「気候変動対策」がスポーツビジネスの条件になるワケ
東京五輪・パラリンピックが開幕した。新型コロナウイルス感染症対策がとられた異例の大会だが、選手の活躍に興奮し、結果に一喜一憂するだろう。欧州では人々を魅了する影響力を生かし、サステナビリティー(持続可能性)の取り組みを広げることがスポーツ界の社会的責任と考えられるようになった。特にプロスポーツには一般企業と同様の気候変動対策が迫られる。
環境省とプロサッカーリーグ「Jリーグ」は6月末、地域で持続可能な開発目標(SDGs)を推進する連携協定を結んだ。小泉進次郎環境相は「地域の脱炭素に欠かせないプレーヤー」と、全国の57のサッカークラブに期待を寄せた。Jリーグの村井満チェアマンは2025年までに全クラブが使い捨てプラスチックの使用をやめる方針を伝え、「一過性で終わらずに続けたい。そのくらいの本気度でないとダメだ」と意気込んだ。
欧州のサッカー界は先を行く。英プレミア・リーグは、クラブのサステナビリティーランキングを公表している。欧州サッカー連盟(UEFA)はカーボンオフセット(炭素の相殺)の手法を使い、欧州選手権開催に伴う40万トンの二酸化炭素(CO2)排出量をゼロ化している。日本のプロ野球などでもCO2ゼロ試合は実施されるが、欧州選手権は全試合が対象。しかも観客の移動に伴うCO2も相殺にする。
「スポーツの社会的責任」に詳しいCheer Blossom(東京都新宿区)の梶川三枝代表によると、UEFAはCO2ゼロ化に5000万円を投じることもある。欧州のサッカー界が意欲的な理由について「欧州の市民はSDGsのゴール13(気候変動)への関心が高い。気候変動対策をとらない企業を認めないように、プロスポーツにも厳しい目を向ける」(梶川代表)と話す。
日本でプロスポーツは市民に勇気や夢を与える存在としての位置付けだが、欧州では一般企業と同様にサステナビリティーを求める。「スポーツは影響力が大きく、ファンなど市民の行動を変える社会的責任があるから。気候変動対策がスポーツビジネスの条件になった」(同)と説明する。
国際社会もスポーツに期待する。国連は気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)の場で「スポーツ気候行動枠組み」を発足させた。脱炭素を目指す競技団体やクラブと国連との協定で、参加原則では「場当たり的な実践ではなく、事業戦略への気候変動対策の統合」を促し、カーボンオフセットによる排出ゼロ化を要請する。全世界で250クラブ・団体が加盟し、アメリカンフットボールリーグ「NFL」、米大リーグのニューヨーク・メッツなど米国からも参加する。日本からは10団体・クラブ程度にとどまり、影響力の大きなプロスポーツではバスケットボール「Bリーグ」の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、Jリーグ2部(J2)のヴァンフォーレ甲府など3クラブだ。
梶川代表は「日本のスポーツ界にも、気候変動対策を求める動きが必ず来る」と断言する。中国などアジアでもスポーツビジネスが成長しており、日本のスポーツ界としては遅れをとれない。
日本でも取り組みが始まっている。Bリーグの千葉ジェッツは会場で古着を回収する。選手もユニホームを提供し、集まった衣類をTシャツに再生して販売している。ファンにリサイクル活動への参加機会をつくり、行動変容につなげる。
ヴァンフォーレ甲府は使用後に容器を返却すると、預けたお金が戻るデポジット方式を売店に導入し、サッカー観戦で廃棄される食器を削減した。他にも阪神タイガースが7月の主催6ゲームのCO2排出量を実質ゼロ化した。
梶川代表は日本のプロスポーツを支えるスポンサー企業に期待する。大企業ほど脱炭素宣言をしており「スポンサーもクラブとともにスポーツの力を活用して脱炭素化に本気で取り組んで欲しい」と話す。企業も影響力のあるスポーツを通じて自社の取り組みをファンに発信できる。五輪を日本におけるスポーツの価値を高める契機にしてほしい。