化学メーカーの業績左右、石油化学品市場で強まる先行き不透明感
石油化学品市場の先行きに不透明感が強まっている。中国の経済活動再開などで回復期待が高まった汎用樹脂の需要は伸び悩んでおり、基礎化学品であるエチレンプラントは生産調整が継続している。主要な輸出相手国の中国、インドでは設備新増設で石化製品の供給量が増えることも見込まれており、化学メーカーの業績を左右する石化市況への影響が懸念される。
足元のエチレン価格(北東アジアCFR)はトン当たり800ドル台前半だった年初から回復傾向で、足元では同950ドル程度で推移している。ただ、市況回復は当面の減産効果によるものとみられ、汎用樹脂など川下を含む石化市場全体の回復につながるとは考えられていない。
石油化学工業協会(東京都中央区、石化協)がまとめたエチレン製造プラントの2月の稼働率は81・1%(前年同月比11・2ポイント減)で、好不況の目安となる90%を7カ月連続で下回った。2月の国内エチレン生産量は43万3600トン(同0・8%減)で前年に比べ定期修理(定修)中の設備は少なかったが、平均稼働率が低下し生産量は減少した。
主要4樹脂の国内出荷はすべて前年を下回り、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)の3樹脂は過去との比較でも単月の出荷量として低水準だった。輸出もHDPEを除いて前年比で大幅なマイナスが続き、「中国の春節休暇後の需要は主だった改善はみられない」(石化協)。建材やインフラ材などに使用される塩化ビニール樹脂も足元では輸出価格が弱含み、中国に加えインドでも「想定以上に在庫が積み上がっている」(化学メーカー幹部)。
コロナ禍からの経済再開に対する上向きなマインドに実需が追いつかない状況の中、焦点になるのは夏以降の需要動向だ。春からは複数の石化プラントで定修が行われる時期に入るため、市況に加え、定修明けの稼働率をいかに高められるかがメーカーの業績を左右する。「厳しい状況だが、年後半以降は改善が期待される」(同)とし、各社はアジアの経済動向を注視する。
ただ、足元で中国石油化工集団(シノペック)などの中国メーカーでエチレン、汎用樹脂の工場新増設・稼働が進むほか、インド大手が塩ビ生産能力の大規模増強を計画するなど各国は石油化学製品の自給率向上に取り組む。需給が緩和し市況低迷が長期化すれば、旧来的な石化事業は競争力低下を免れず、国内産業の再編圧力にもつながる。市況変動への柔軟な対応に加え、中長期的な市場の変化とどう向き合うか。高付加価値化を進める日本の化学業界にとって、避けられない課題の一つになっている。
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