プラント稼働停止も…「化学品」市況の低迷が長期化している要因
中国の景気減速を背景に、化学品市況の低迷が長期化している。アジアで塩化ビニール樹脂やナイロン原料のカプロラクタム(CPL)など価格が低水準で推移し、スプレッド(利ざや)が縮小。一部製品ではプラント稼働を止め、在庫販売に切り替える企業も出てきた。不動産や消費財など内需が冷え込み、中国の輸出量が増えたことが市況下落の要因とされる。足元では政府の「ゼロコロナ」政策が緩和されたものの新規感染者数の急増が伝わっており、需給改善にはしばらく時間がかかりそうだ。(大川諒介)
「アジアの石化プラントは7―8割の稼働が続く。中国国内では今後新増設も見込まれ、市況の本格的な回復は2023年後半までかかる可能性もある」。住友化学の竹下憲昭代表取締役専務執行役員はこう見通す。
幅広い製品に使われるポリプロピレン、ポリエチレンなどの主要樹脂は、コロナ禍でサプライチェーン(供給網)が停滞した時期を除き22年上旬まで旺盛な需要が続いた。経済成長による需要増に加え、環境規制強化でプラントの新増設が追い付かないことなどから中国の“買い”に支えられたためだ。川上の国内エチレン製造プラントは、景況感の目安となる稼働率90%超えを22年4月まで2年間維持するなど好況が続いた。
中国の景気減速で一転、足元の事業環境は厳しい。主要樹脂の需要が減少したほか、最終製品の輸出先である欧米経済の減速懸念も高まっている。エチレンのアジア市況は直近でトン当たり870ドル水準で、同1300ドル台を付けた22年4月から下落した。国内プラントは同11月稼働率が82・2%(前年同月比12・9%減)となり、4カ月連続で90%を割った。内需、外需ともに低迷し生産が落ち込んでいる。
不動産市場の悪化も化学品市況に反映されている。建築資材やインフラ材などに使用される塩化ビニール樹脂はアジア市況が22年後半から軟化した。国内化学メーカー幹部は「中国や域外でつくられた塩ビが安値でインドなどの需要国に流れている」と指摘する。インドは世界最大規模の塩ビ輸入国。中国や欧米で内需が低迷し在庫余剰になった製品を、価格を切り下げインドや東南アジア諸国への輸出に回す動きが価格を押し下げている。
ナイロン原料のカプロラクタム(CPL)も似た値動きをみせる。UBEは12月のアジア契約価格をトン当たり1650ドルとし、前月比で100ドル引き下げた。原料価格が下落しているものの、スプレッドは8月以降800ドル台の厳しい状況が続く。中国では冬物衣料向けや春節(旧正月)前の需要が不発に終わった。同時期に台湾大手・中国石油化学工業開発(CPDC)がプラントを停止したが、需給改善は難しいとみてUBEは価格を下げた。畑中則夫ラクタム・硫安営業部長は「国内工場は定修明けのためフル稼働だが在庫を積み増している状況。タイ工場は定修の前倒しで生産調整後、稼働率を80%程度に抑えている」と説明する。
世界経済の動きを見通す上でアジア市況は注視される。今後中国だけでなく世界で景気後退の動きが強まると、域外品との競争がより激しくなるからだ。そして市況低迷が長引けば、化学メーカーは生産調整の判断や価格交渉などの地力が試される展開になる。石化の次なる春はいつ訪れるのか。各社は中国経済の動向を、固唾(かたず)を呑んで見守っている。
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