「量子コンピューター」国産化へ、供給網の重要部品洗い出し
政府は量子技術の産業化を促進させる「量子未来産業創出戦略(仮称)」を策定する。量子コンピューターのサプライチェーン(供給網)における重要部品を特定した上で、企業の新規参入を後押しする。量子コンピューターの本格的な実用化段階では、関連するハードウエアだけでも巨大な市場が創出される可能性は高い。経済安全保障の観点でも重要技術・製品の国産化が欠かせない。(小寺貴之)
「重要部品の約4割が日本製。これをみすみす失うわけにはいかない」。文部科学省の迫田健吉量子研究推進室長は知恵を絞る。量子コンピューターなどの重要部品を洗い出しサプライチェーン構築に向けた施策を練る。超電導方式の量子計算機では重要部品71種中28種が日本製で首位だった。同26種で2位の米国製部品などを合わせると有志国で量子コンピューターを内製できる。
富士通の試算では超電導方式の量子コンピューターは1000量子ビットの制御装置が30億―50億円になった。1量子ビットあたり300万―500万円になる計算だ。将来的にはこの1000倍が必要になるとみられ、それだけ巨額で、すそ野が広いサプライチェーンが生まれることを意味している。
例えば超電導方式では量子チップを極低温まで冷やす強力な冷凍機が必要になる。冷凍機が大きいほど量子ビットを集積できるが、メンテナンス性を考慮すると、冷凍容器に詰め込めるのは6割程度までだ。現状では冷蔵庫程度の小型サイズで研究が進むが、将来は倉庫サイズの空間を極低温にする。現行の冷凍機では届かない規模になる。
配線も新規参入の余地が大きい。理化学研究所の国産初号機は入力配線が96本で出力配線が16本。合計112本の配線で極低温と外部をつないだ。同軸ケーブルの信号を伝える芯線は細いが、ノイズを抑えるシールドが太く、熱流入が課題になる。多機能ケーブルには高い技術力が求められる。
政府は今後、産業技術総合研究所(産総研)に部材やデバイス、集積回路などの試作、評価を支援する拠点を設ける。経済産業省の堀部雅弘研究開発調整官は「量子ビットのコアな部分は理研。周辺を産総研で開発支援する」と説明する。大規模な量子コンピューターは周辺装置も巨大になる。理研は国産初号機では制御装置やソフトウエアを自前で開発しており、これらを継続的に支える事業者が必要だった。
量子技術は今後10年以上かけて成熟していくとみられる。政府が基礎研究段階から経済安全保障や国産化を意識して政策を整える数少ない製品になる。未来産業創出への挑戦者が求められている。