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産総研が挑む「超電導量子コンピューター」、研究開発の今

スーパーコンピューターやスマートフォンに搭載されている半導体プロセッサーは、情報を0あるいは1のビットで表現して計算する。これに対し、量子コンピューターは、量子ビットにより0と1のほか両者の重ね合わせ状態をつくり、多数のパターンによる並列での高速演算を実現する。量子コンピューターは、新たな高性能材料や医薬品の開発に役立つ理論化学計算、ビッグデータを扱う人工知能の能力向上に役立つと期待されている。

量子コンピューターを実現するには、イオントラップ、光、半導体、超電導体などの候補がある。産業技術総合研究所(産総研)は、これら候補の中から、高い集積度が望める超電導量子回路を使った超電導量子コンピューターについて、基盤理論からハードウエア、アプリケーションまで包括的な研究開発を進めている。

また、2018年よりNEDOプロジェクト「量子計算及びイジング計算システムの統合型研究開発」の代表事業者として、産学官連携で超電導量子コンピューターおよび超電導量子アニーリングマシンの研究開発を進めている。

超電導量子ビットは超電導量子回路の基本素子であり、超電導量子コンピューターの要である。このプロジェクトでは、超電導量子ビットの性能の向上と集積化に関する課題の解決のため、最適な材料とデバイス構造を研究している。

超電導量子ビットおよび集積回路は、半導体と同様にクリーンルームで作製される。デバイスの作製は、我々が管理・運営する超電導量子回路試作施設(Qufab)で行われる。20年度の補正予算「重点産業技術に係るオープンイノベーション拠点整備」で耐久年数を超えたプロセス装置を更新した。このリニューアルにより、超電導量子コンピューター向けの全てのデバイス・回路が作製できるようになった。

Qufabは国内外の企業や大学も使用できるオープンプラットフォームで、ユーザーは設備投資を行うことなく超電導量子コンピューターのハードウエアを開発する環境が整っている。

産総研 新原理コンピューティング研究センター 超伝導量子デバイスチーム 研究チーム長 水林亘
22年度より公開したQufab(https://unit.aist.go.jp/d-tech/qufab/)は、超電導量子デバイス・集積回路の試作・開発のための国内最大級のオープンプラットフォーム(共同利用施設)である。より多くの企業に活用いただくための情報発信に加え、Qufabを利用した最先端の研究開発の成果を世界に発信できるよう尽力したい。
日刊工業新聞 2023年02月16日

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