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住友電工「レドックスフロー電池」に起死回生の好機、オンリー・ワン技術は開花するか

住友電工「レドックスフロー電池」に起死回生の好機、オンリー・ワン技術は開花するか

サンディエゴ市に設置したRF電池の全景

住友電気工業が手がけるレドックスフロー(RF)電池に起死回生のチャンスが訪れている。同電池は大容量の電気を長期間蓄えられるのが特徴で、再生可能エネルギーの需給を調整できる蓄電池として需要が活発化する。同社は一度撤退したが、2009年に再参入し最近では米欧や国内で設置数を伸ばす。1980年代から諦めなかったオンリー・ワン技術の開花に期待がかかる。(大阪・田井茂)

再生エネ需要活発化

2月7―9日に米国カリフォルニア州サンディエゴ市で開かれた世界最大規模の電力関連技術展。住友電工が同市に設置したRF電池の実証機見学会には、全米と海外から150人ものエネルギー事業関係者が訪れた。設備を所有する現地のエネルギー事業者は「電気の価格が安い時にRF電池へため、価格が高い時に売電できる」と、収益の魅力も説いた。

住友電工は2017年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と実証機を設置後、22年に現地のエネルギー事業者に売却した。保守も含め安定稼働を続ける点が評価された。

世界の蓄電池市場の3分の1を占める米国は蓄電池ベンチャーも多いが、資金や技術で失敗し途中で投げ出す事例が多い。住友電工は10億円を投じRF電池を現地生産する方針も同技術展で表明した。最大市場に密着し受注を狙う。

一度撤退も再参入

RF電池は1974年に米国で発明された。日本では80年代に、電池産業の育成を図る国の蓄電池プロジェクトがスタート。当時は夜間に余る原子力の電気を蓄え昼間に供給し、昼間の電力負荷を平準化するのが狙いだった。住友電工がRF電池の開発を始めたのは85年。柴田俊和エネルギーシステム事業開発部RF電池技術部長は「実験レベルで開発している時に、電力会社からも大きな蓄電池をやろうと誘われ、一緒に始めた。当時、誰もやらない技術に挑んだ、と聞いている」と説明する。材料の不具合や性能不足などを克服し、2000年に実用化へこぎ着けた。

しかし初回の挑戦は失敗に終わる。非常用電源として買った病院や工場で液漏れが起こり、修理に追われた。コストが高く原料のバナジウムの不安定な市況もたたり赤字となり、05年に事業撤退へ追い込まれた。

RF電池は電解液コンテナ(1階部分)と電池盤コンテナ(2階部分)からなる(住友電工の大阪製作所)

しかし撤退後も、客先に納めたRF電池の改修を続けた技術者たちが悔しさのあまり、技術をひっそり継承していた。その後、地球温暖化対策として再生エネ活用の機運が世界で急速に高まり、再生エネを蓄える大型蓄電池に好機が訪れていた。「もう一度チャレンジさせてほしい」。技術者の願いはRF電池を惜しむ役員も動かし、09年に再開した。

2度の失敗は許されない覚悟で、技術者は耐久性と蓄電性能を高める材料研究を徹底する。横浜製作所(横浜市栄区)に12年、5000キロワット時の実証機を設け安定稼働させ、信頼性を証明する技術提案も成功した。ただ「当時、RF電池は商用というにはまだ高価で、大規模案件の受注に至らなかった」(柴田部長)。再開後も道のりは険しかった。

一方、国も電力系統用の大型蓄電池国産化に力を入れ始める。経済産業省は東京電力福島第一原子力発電所の事故後の13年から、電力会社や電機・素材メーカーと多様な大型蓄電池の緊急実証事業を進めた。

住友電工は風力の再生エネを見込める北海道電力とRF電池を手がけ、電力系統の大型蓄電池で実用化技術を蓄積した。電力会社向けの商用として初めて納めた先は、北海道電力ネットワークの南早来変電所(北海道安平町)。5万1000キロワット時で22年4月に稼働した。

足元では小規模な商用は企業や自治体から受注と引き合いが相次ぐ。ベルギー、モロッコ、台湾にも小型設備を中心に納めた。納入の累計実績は6カ国で36プロジェクト・16万2000キロワット時と実績は確実に積み上がっている。

国内唯一の事業化

RF電池は定置型の蓄電池。国内では住友電工が唯一、事業化する。20年以上の長寿命で電解液は半永久的に使える。

電解液の硫酸バナジウムをポンプで循環し、バナジウムイオンの酸化還元反応で充放電する。液中のイオン変化だけで電池反応が起こるため、金属が溶出するほかの蓄電池と異なり電極や電池反応物質がほぼ劣化しない。水溶液は不燃性で発火リスクも小さい。

構造は簡素で主体は充放電するセルと電解液タンク。電力系統の需給調整や再生エネの出力調整、非常用電源などに向く。短時間仕様であれば初期コストはリチウムイオン電池(LiB)より高い。だが長期間交換が不要で、電解液をほかのRF電池に使えば廃棄コストも抑えられる。5―8時間以上の長時間仕様であれば、調達から廃棄までのライフサイクルコストはLiBより有利とされる。バナジウムはレアメタルで中国とロシアが主な産出国。地政学リスクはあるが、豪州や南アフリカでも採れる。

蓄電池市場は定置型も電動車など向けの移動型も、性能が高く量産の容易なLiBが中心。ただ寿命はRF電池に比べ短い。発火を防ぐ技術コストや廃棄コストもかかる。定置型では日本ガイシのナトリウム・硫黄(NAS)電池も、コスト競争力などから有望視される。

【続き】住友電工社長インタビューはこちら

日刊工業新聞 2023年03月28日

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