「プランBで最善の一手」…スパコン「富岳」をAWSに再現する意味
計算環境構築、アプリで大規模予測
理化学研究所は米アマゾンウェブサービスのクラウド環境「AWS」上に”バーチャル富岳”を構築する。スパコン「富岳」の計算環境をAWSに再現し、富岳向けに開発された大規模シミュレーションなどのアプリケーションを活用できるようにする。3月末までに富岳のソフトウエアが稼働することを確認し、2024年度内にサービスを始める。(小寺貴之)
「プランBとしては最善の一手。富士通は英ARM(アーム)チップの高性能ソリューションのリーダーになることができる」と理研計算科学研究センターの松岡聡センター長は強調する。富岳は英ARM仕様の富士通製A64FXチップを用いて構築された。米AWSも英ARM仕様のグラビトン3チップでクラウド環境を構築した。A64FXから4年が経ってチップの性能が追いつき、富岳のソフトウエア環境をAWS上に構築できるようになった。
理研はアマゾンウェブサービスジャパン(東京都品川区)と覚書(MOU)を結び、AWS上にバーチャル富岳を構築する。23年度内に富岳のソフトをAWS上で動かし、24年度前半に性能を比較して改良する。24年後半のサービス開始を目指す。
富岳ユーザーにとっては富岳向けに開発された気象シミュレーションや分子動力学計算、長周期地震動シミュレーションなどがAWS上で使えるようになる。富岳向けアプリを開発してきた研究者にとってはユーザーが広がり改良が進む。利用企業にとっては機密データを外に出さずにAWS上で計算できる。有償のAWSで大規模な計算を走らせるのはコストがかかるため、大規模な研究テーマは富岳に戻ってくると理研は想定している。
日本のスパコン開発戦略の転換点にもなる。富岳では製造を担当した富士通がA64FXを外販する構想だった。富岳はスパコン性能ランキングで4期連続4冠を達成したが、「結果的にクラウド向けの外販は成功しなかった。それでもARMチップのノウハウを蓄積できた」(松岡センター長)。4年分のリードを生かし、ソリューションビジネスをけん引する。
富岳の後継機は現在事業化調査(FS)が進む。富岳のように学術界がアプリ開発、製造企業がハード外販という役割分担ではなくなる。クラウドを含めて実用化の戦略を練ることになる。松岡センター長は「世界でトップを取ることが目標。どんな企業と組むか分からないが、世界標準を狙う」と力を込める。