半導体露光装置で培った技術を材料加工に生かす、ニコン再成長の弾みになるか
ニコンが新事業拡大に挑んでいる。中でも注目は材料加工分野だ。半導体露光装置事業で培った技術を活用する。2022年には材料加工分野で海外3Dプリンターメーカーの大型買収を発表。自前主義から脱却し、他社との連携に積極的な姿勢を示している。ニコンの売上高規模はデジタルカメラを主力とする映像事業が低迷し縮小傾向にある。材料加工事業を軌道に乗せ、ニコン全体の再成長に弾みをつけられるか。(阿部未沙子)
自前主義から脱却、他社と連携
8日(現地時間)まで米ラスベガスで開催された電子機器見本市「CES」。ニコンは初めてBツーB(企業間)製品を出展した。産業用ロボットを載せた飛行ロボット(ドローン)を飛ばし、風車上部に加工を施す技術などを紹介した。
22年9月、ニコンは約840億円を投じて3Dプリンターメーカーの独SLMソリューションズグループ(SLM)を買収すると発表した。その会見で馬立稔和社長は「ニコンはモノづくりの世界に革新をもたらす」と宣言。その一端をCESで示したわけだ。
ニコンは、22年に発表した25年度までの中期経営計画で各事業で成長をけん引する分野を定めた。半導体露光装置などの精機事業ではデジタル露光、映像事業では映像コンテンツ、ヘルスケア事業では細胞受託生産・創薬支援、コンポーネント事業では光学・極端紫外線(EUV)関連部品などを成長ドライバーと位置付けた。
中でも注力するのがデジタルマニュファクチャリング領域の材料加工だ。CESで同社が披露したドローンを用いた技術は「リブレット加工」と呼ばれ、サメの肌の表面形状のような微細で周期的な溝を形成する。モノの表面に施すと空気や水の摩擦抵抗を低減できる。航空機などに応用すると燃費改善が期待でき、22年には全日本空輸(ANA)が一部の機体に採用した。
リブレット加工のほかにも除去加工、付加加工の金属積層造形(AM)を重点分野とする。特にAMへの期待は高く、ニコンの柴崎祐一執行役員次世代プロジェクト本部長は「当社の半導体露光装置の技術が生かせる」と鼻息も荒い。
新事業創出を目的とする次世代プロジェクト本部の前身「次世代プロジェクト室」は07年に立ち上がり、19年に次世代プロジェクト本部として全社的な組織となった。本部発足時の人員は70人強だったが、派遣社員を含めると270人ほどまで規模は拡大した。
ニコンの22年3月期の売上高は5396億円と、13年3月期(1兆104億円)と比べ47%減少した。主因は映像事業の不振。22年3月期の同事業の売上高は13年3月期比76%減の1782億円まで落ち込んだ。スマートフォンに需要を奪われデジカメ市場全体が縮小したほか、ニコン個別の問題としてミラーレスカメラ市場でライバルの後じんを拝した。
日本カメラ博物館の山本一夫学芸員は「ニコンには本格的なカメラを期待する声が多い」とし、「(期待に応えようとすると)親しみやすさからは離れてしまう」と指摘する。本格的なファンと、新たなファンの双方に訴求することが難しいことが同社の泣き所であり、25年度中計でも映像事業の売上高目標は2000億円とほぼ現状維持だ。
ニコンの一段の成長のためには新規事業を伸ばすことが不可欠。材料加工と産業用ロボット向けカメラ「ロボットビジョン」の両分野の22年3月期売上高は20億円。ここにSLMの売上高(21年12月期で7511万ユーロ〈約105億円〉)が乗ってくることになる。エネルギーや宇宙、自動車などの市場を開拓しさらなる成長を目指す。
一方、製造業という広いフィールドで存在感を高めることは単独では難しい。カギになるのは他社とのアライアンスだ。20年には、DMG森精機と業務提携をスタート。22年もSLMの買収決定のほか、米企業2社への出資も立て続けに実施した。
馬立社長は「まずはSLMと連携し、しっかりと事業を立ち上げる」と意気込みを語る一方で、「(SLMの買収発表で)おなかいっぱいという訳ではない」と次の戦略提携に意欲を示す。
新規事業の指揮を執るニコン役員のインタビューはこちら
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