ニコン社長が経営に生かす、感銘を受けた半導体メーカーの姿勢
現場重視、社員に聞きに行く
「率直でありなさい」―。ニコン元社長の吉田庄一郎氏からの言葉だ。馬立稔和社長は、ニコンに入社して半導体露光装置の電気系の設計を担当。吉田氏は馬立社長の配属先の部長だった。「上司と異なる意見でも、率直に言える風土があった」と振り返る。
当時、設計担当者は全体で20人ほどで、一人ひとりの役割が大きい状況。業務量は多かったが、吉田氏からは、「(設計担当者であっても)製造現場と一緒に仕事をし、顧客と密接に付き合った方がよい」と助言を受けたという。
馬立社長は、顧客との定期的な打ち合わせに参加し、要望を聞いた。毎日、顧客のもとに通うこともあった。製品の使用方法など「お客さまにいろいろなことを教えてもらい、設計者として非常によい経験だった」。
入社して約6年がたった頃、新製品を発売するためのプロジェクトチームをリーダーとして率いた。その後、装置全体の設計を取りまとめる部門で、製品全体を俯瞰(ふかん)する立場になった。こうした経験を通じ、チーム運営の技術を身に付けるとともに、「一人でできることは限られている」と感じた。ほかにも営業責任者を任され、価格交渉に当たった経験もある。
2000年代には元上司に声をかけられ、半年から1年に1回ほどの頻度で米国半導体メーカーへの訪問に同行した。元上司からは、「仕事の取り組み方や顧客への姿勢を教えてもらった」と振り返る。
現場を理解し、即時的に認識している米半導体メーカーの姿勢に感銘を受けたという馬立社長。馬立社長は、従業員からの週報を見て情報収集しているほか、「社員に聞きに行くこともある」と、実際の経営に生かす。
率直な姿勢や現場の大切さは、経営を行う上での基礎となった。「ニコンを、どのような会社にしたいのかについて皆が共有し、それに向かっていくことが大事」。「人と機械が共創する社会の中心企業」を、30年のありたい姿として中期経営計画に盛り込んだ。
また、「人が力を合わせて行うのが仕事」と認識する。力を集結するためには対話が必要とし、意見交換の場「タウンホールミーティング」を開催。各部門の代表者が馬立社長に質問するほか、馬立社長も社員に対して質問する。
ニコンは、22年に入り独SLMソリューションズグループに対する買収の発表や、米国企業への出資といった決断をしてきた。「合理的な判断が大事」とし、ビジョンの実現に挑む。(阿部未沙子)
【略歴】うまたて・としかず 80年(昭55)東大院電気工学修士課程修了、同年日本光学工業(現ニコン)入社。05年執行役員、12年常務執行役員、19年社長。福岡県出身、66歳。