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工作機械・航空機部品・船舶部品…「特定重要物資」指定が与える影響

4要件満たした11分野支援

政府は経済安全保障推進法に基づき、月内に航空機部品など11分野を「特定重要物資」に指定する。米中対立やウクライナ危機を背景にサプライチェーン(供給網)リスクが浮き彫りになる中、供給安定化を図る企業を支援する。企業からは「工場増設を検討する場合、日本が選択肢に入ってくる」(安川電機の小笠原浩会長兼社長)との声が挙がり、国内サプライチェーンに変化をもたらす可能性もある。11分野の中から工作機械・産業用ロボット、航空機部品、船舶部品の機械系3分野の動向を探る。(特別取材班)

政府は11分野の特定重要物資に指定するとともに、安定供給に向けた方針を策定し、特定重要物資の生産体制を強化する企業への支援策を講じる。高市早苗経済安全保障担当相は「サプライチェーン(供給網)の状況を十分にチェックし、(11分野が)重要な物資として挙がった」と説明する。

政府は四つの要件に基づいて特定重要物資に指定する。①国民の生存に必要不可欠②外部への依存性③外部からの行為による供給途絶の蓋然(がいぜん)性④安定供給を確保する必要性―の四つすべてを満たす分野が対象となる。 特定重要物資の指定とともに、安定供給に必要な取り組みをまとめた方針案も公表した。各分野で生産能力の増強や研究開発、備蓄に関する目標の達成時期を設定。設備投資や供給源の多様化などの計画を進める企業に助成や、企業に融資する金融機関への利子補給といった支援策を用意する。

企業は供給確保に向けた計画を作成して申請し、所轄大臣が認定すれば支援を受けられる。政府は関連費用として補正予算で1兆358億円を計上しており、23年3月から申請受付を始める見込みだ。

米国と中国の対立やロシアのウクライナ侵攻により、多くの企業がサプライチェーンが寸断するリスクに直面している。政府は特定重要物資について安定的な確保やシェアの維持を目指す。

【工作機械・産ロボ分野】工場増設、日本が選択肢に

今回の政策に対して工作機械、産業ロボットの両業界からは好意的に受け止める声が多く聞かれる。微細加工機が主力の碌々産業(東京都港区)の海藤満社長は「工作機械メーカーにとって非常に良い影響が期待できる」と捉える。ファナックの山口賢治社長は「産業用ロボットは製造業を支える基幹産業であり、日本が強い数少ない領域。この重要性を国が認識して支援してくれることは大変ありがたい」と話す。

安川電機は需要地生産による地産地消を基本方針とする。国内のほか、中国やスロベニアなどに産業用ロボットの生産拠点を持つが、小笠原会長兼社長は「(特定重要物資に指定されることで)ロボットの工場増設を検討する場合、日本が選択肢に入ってくる」と評価する。

一方で、各社は従来から安定供給のための取り組みを進めている。牧野フライス製作所は日本生産品向けで、鋳物を除くほぼすべての部品・部材を国内で調達している。今後は日本国内で鋳物調達先を増やすほか、安全在庫の適正化も進める。逆に、板金部品は海外に発注先を広げる予定で、宮崎正太郎社長は「コスト面やリスクの観点から、特定地域から分散させていきたい」と話す。

こうした背景もあり、業界からは助成対象が今後明確化される点を注視する姿勢も見受けられる。大手工作機械メーカー首脳は「調達先地域を分散化できるような供給品を作れる技術開発が助成されればありがたい」と話す。

【航空機部品分野】海外調達は常に複数

航空機は国内外の物流や移動手段として重要で、正常で安全な運航確保には、航空機部品の安定供給が不可欠だ。日本企業は完成機は手がけていないが、下請けとして世界の航空機大手を支える存在だ。米ボーイングの機体には国内の重工業大手が製造に参画している。同社機や欧エアバス機に搭載するエンジンも同様だ。

部材でも炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のように日本企業が強いものもあるが、部材調達で経済安保上懸念がある国への依存が高まれば、有事の調達途絶の恐れがあり、世界の航空機運航に影響しかねない。

航空機エンジン大手のIHIは「カントリーリスクを避けつつ、国内外の供給元との長期契約により、安定調達を確保する」と基本方針を説く。特定国からの調達途絶のリスクについては、海外調達は常に複数の供給元や国からの調達を念頭に置き、リスクを軽減している。

同社は経済安保に関する専門部署「経済安全保障統括部」を置くが、特定重要物資に関するサプライチェーン調査は行っていない。

一方、次期航空機エンジンのコア部材として期待されるセラミックス基複合材料(CMC)を開発中で、既存の部材と同様の安定調達を目指す。サプライヤーには、ビジネスリスクをよく分析・把握してもらい、サプライチェーンを含む懸念事項があれば相談しているという。

【船舶部品分野】業界再編、供給責任果たす

日本は四方を海に囲まれ、貿易量の99・5%を海上輸送が担う。船舶部品が11分野の一つに指定されるのは、仮に機器を調達できずに海上輸送が途絶した場合、日本経済や国民生活に多大な影響が出るからだ。中でも舶用エンジンは船舶の推進力を生み出す重要なもので、船舶に応じて専用に製造しており、代替は困難だ。

舶用エンジンは船舶に応じて専用に製造しており、代替は困難だ(三井E&Sの舶用大型エンジン)

舶用大型エンジンで国内首位の三井E&Sマシナリー(東京都中央区)は、主要部品は国内調達を主軸にしており、経済安保上懸念がある国からの調達断絶リスクに備えている。サプライヤーには「自国で船を作り続けることが経済安保上の重要事項で、船の心臓部にあたる舶用エンジンは国内造船業を支える重要な部品だ」と折に触れて説明し、理解してもらっている。

同社を軸に業界再編が進んでおり、経済安保の観点からも意義が大きい。親会社三井E&Sホールディングスは、IHIから同社子会社IHI原動機(同千代田区)の舶用大型エンジン事業を23年4月に譲り受ける。三井E&Sマシナリーの国内シェアは合計65%(21年実績)にもなる。両社の製品はライセンスが異なるため、二つのライセンス体制で競争力が高まる。

脱炭素で重油から液化天然ガス(LNG)やメタノールなど新燃料への転換に対応するため、23―24年度に生産設備を増強することも決めた。事業譲受と生産増強は「海外に頼らず供給責任を果たすために必要な施策」(三井E&Sマシナリー)と言える。

日刊工業新聞 2022年12月09日

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