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JAXAが挑む衛星システム刷新で競争力強化、カギはデジタル活用

衛星システムは、気象観測・測位・通信など実利用が進み、現在の社会システムに組み込まれてきている。このような実利用においては、衛星システムが止まってしまうと社会システムに大きな影響を与えてしまうため、成熟度の高い技術を活用した着実な衛星開発が求められる。一方で、成熟度の高い技術だけで衛星を開発していると最新の技術の適用ができず、競争力を維持することが難しくなってくる。

昨今、世界の衛星利用は急速に進展してきており、衛星システムを刷新し、競争力強化につながる挑戦的技術・先端技術に取り組む必要性が2020年度の宇宙基本計画改定において示され、「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」の立ち上げにつながっている。

衛星システムを刷新し、競争力強化につなげる方策として、昨今急速に活用が進んでいる“デジタル技術の活用”がキーの一つと考えている。衛星システムへのデジタル技術の活用としては、地上でも活用が進むエッジコンピューティング環境を衛星にも組み込み、人工知能(AI)や衛星同士の連携など、高度なアプリケーションを実現できる環境を整備し、新たな衛星利用サービスの創出につなげることを目指している。

また、衛星システムの設計・製造・試験へのデジタル技術の適用に向けた検討も進めている。具体的な技術としては、本連載コラムで以前紹介したMBSE/MBD(モデルベースシステムズエンジニアリング/モデルベース開発)、シミュレーションといったコンピューター環境の中に衛星開発に関する情報を作り込む技術や、3Dプリンターのようにデジタルとリアルをつなぐ技術を企業と協力して作り上げ、早く、効率的な衛星開発の実現も目指している。

21年度よりプログラムを開始し、JAXAインハウスでの技術検討を進めるとともに、研究会を立ち上げ、さまざまな方と対話を行いながらプログラムを推進している。22年10月には、24年度の本プログラムの軌道上実証に関する共同研究公募を開始した。

24年度の軌道上実証では本プログラムで進めている高度なコンピューティング環境の実証を目指すとともに、この技術を活用したサービス実証にも取り組むことを目指している(図)。今後も本プログラムに関するさまざまな取り組みを発信し、多くの方々にご参加いただけるよう進めたい。

研究開発部門 研究戦略部 計画マネージャ 加藤松明

札幌市出身。01年入社。入社後、「μ―LabSat」などの小型衛星開発に従事。その後、地球観測衛星「しずく」の開発、フランスでの長期派遣研修、経営推進部、システム技術ユニットを経て20年より現職。

日刊工業新聞 2022年10月31日

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