JAXA名誉教授が指摘する「イプシロン打ち上げ失敗」の要因
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、固体燃料ロケット「イプシロン」6号機の打ち上げ失敗の原因究明を進めている。日本のロケット開発の父である故・糸川英夫博士の最後の弟子で、イプシロンの前身ロケットの改良などに貢献したJAXAの的川泰宣名誉教授に話を聞いた。
―イプシロンが打ち上げに失敗しました。
「イプシロン6号機の打ち上げは中継で見ていたが、打ち上がった姿を見て配信を切ってしまった。その後、打ち上げ失敗の問い合わせが来て初めて事情を知った。びっくりしてJAXAの前イプシロンプロジェクトマネージャの森田泰弘氏に連絡し、すぐに状況について話し合った」
―失敗の原因をどう見ていますか。
「打ち上げの軌道データなどを見ると、エンジンの2―3段目の切り離し時に姿勢制御に問題が起こったとすぐに分かった。現段階でバルブの開閉異常か配管の詰まりの二つまで原因が絞り込まれているが、配管の詰まりは設計上起こりにくくバルブが原因だとみている。ただ、ロケット打ち上げ失敗の事例でバルブが原因で姿勢制御に失敗した事故は聞いたことがなく、世界的に見てもまれなケースかもしれない」
「開発中の大型基幹ロケット『H3』に使われるバルブの弁は、イプシロンと同じメーカーが作っている。検証は必要だと思うが、型が異なるため打ち上げ時期への影響はないだろう。今回の失敗が部品の管理体制の不備ならば、より影響は少ないとみる」
―同様の失敗を起こさないためには、どうしたらよいですか。
「大型基幹ロケット『H2A』は年に数回打ち上げているが、イプシロンの打ち上げ機会は数年に1度程度。打ち上げ頻度が高ければ使う部品の入れ替えが多く、管理体制がしっかりする。だが打ち上げ頻度が低いと取り置きの古い部品を使うケースがあり、不良品を見落とすと失敗につながる可能性が高まる。今回の打ち上げ失敗は、部品の管理体制の不備が要因だろう」
「ロケットの部品は貴重なものが多いが、使い方次第では威力が発揮できない。イプシロンの打ち上げ頻度の低さが招いた事故であり、H2Aのように打ち上げ頻度を高めることが改善につながる」
【記者の目/早い復活が求められる】
JAXAはロケットの打ち上げに失敗すると、その度に次の打ち上げまでに数年の間が空く。他国の宇宙輸送ビジネスが活発化する中で、早い復活が求められる。事故調査と並行して、開発の手を止めずに進めてほしい。(飯田真美子)