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航空・商社・損保…ドローン、法改正で新たな商機はどこだ

航空・商社・損保…ドローン、法改正で新たな商機はどこだ

豊田通商のグループ会社、そらいいなは、長崎県五島列島で医薬品の配送事業を始めた。専用ボックスを投下するドローン(そらいいな提供)

12月の航空法改正で飛行ロボット(ドローン)の飛行可能範囲が広がる。新たに都市部など有人地帯における目視外での自律飛行(レベル4)が解禁される。これにより都市部での物流や警備、災害対策などのサービス展開が可能になる。商機を探る各業界の動きを探った。(編集委員・嶋田歩、同・小川淳、同・中沖泰雄、大城麻木乃)

機体市場、30年3000億円規模 安全・騒音対策などカギ

「ドローン市場を取り巻く環境は大きく変化している」。国内大手ドローンメーカーのACSLの鷲谷聡之社長は力を込める。有人地帯上空の目視外飛行が可能になることで、これまでの離島や山間部での配送に加え、都市部での配送や警備ができるようになる。同社ではドローン機体市場が2030年に3000億円規模、潜在的には10兆円規模まで拡大すると強気の見通しを立てている。

市場拡大の中心になると見込むのが、物流向けだ。小型空撮用の「SOTEN(蒼天)」に続いて、3月に可搬重量5キログラムの物流向け機体「エアートラック」の受注活動を始めた。物流用ドローンは空撮用ドローンより機体が大きい分、価格も高い。世界大手の中国DJIとの価格競争に巻き込まれる可能性も相対的に低く、収益面でも柱に育つと見込んでいる。

物流ドローンの配送で全国展開を目指すのが、エアロネクスト(東京都渋谷区)だ。同社はラーメンやうどんのような液体でも、こぼれないように安全に運べる技術に強みを持つ。宅配トラック大手のセイノーホールディングス(HD)と組むことで、ドローン配送のネックであるラストワンマイル(目的地までの最終区間)の問題点を解決した。「全国の1741市町村を訪問し、半数以上から前向きな回答をいただいている」と田路圭輔エアロネクスト社長は自信を示す。

ACSLも物流面では日本郵便と手を組む。ANAホールディングス(HD)や日本航空(JAL)もそれぞれドローン配送の事業化を目指している。

法改正では有人地帯での目視外飛行を認める一方、機体の型式認証や操縦者の免許制度、飛行ごとの申請を決めた運航ルールなど厳しい基準を設ける。都市部で上空を飛ぶ場合は衝突回避システムが必須で、墜落した時に備えてパラシュートの設備なども求められる。ドローンメーカーはこうした基準を低コストでクリアできれば、有力なアドバンテージになる。

一方、各社トップからは「都市部上空の飛行が解禁になるといっても、当面、実際の事業の柱になるのは山間部や離島が中心」との声が漏れる。都市部では人の頭の上を飛ぶことになるため、荷物や部品落下への懸念やプライバシーをのぞかれることへの心理的抵抗感が拭えない。また騒音問題も無視できない。空撮用機体と違って物流ドローンは機体寸法が数メートルあり、低い高度を飛べば大きな音が出る。 

都市部上空でのドローンビジネスの発展には、こうした課題を解決していけるかどうかもカギを握る。

【航空】「1対多運航」/「飛行ルート可視化」

ドローンによる物流や点検・警備、災害対応業務などの広がりは航空会社にとっても商機となる。JALはKDDIと共同で、1人の操縦者が複数台のドローンを運航する「1対多運航」を実現する技術開発に取り組んでいる。実現すれば、運航する人材の不足解消や業務の効率化に役立つ。複数のドローン飛行に対応したシステムや運用要件の検討のほか、飛行制御システムの開発や各地で飛行実証も進める。

通信品質の基準を満たした飛行ルートの可視化イメージ(ANAHD提供)

一方、ANAHDは8月、ドローンの飛行ルート構築に必要な通信環境の品質レベルを可視化するサービスを開発するため、通信インフラ整備のブルーストーンリンクアンドサークル(東京都港区)と基本合意書を締結した。

ドローン物流が本格化するには、安定的な通信ネットワークを考慮した飛行ルートの開拓が求められる。上空の通信環境に関する解析を行い、安全性に配慮したドローン物流の実現を目指していく。

【商社】医薬品配送などで協業推進

豊田通商はドローンを活用し、長崎県五島列島で医療用医薬品の配送事業を始めた。五島市に拠点がある医薬品卸会社と契約し、医療機関や薬局に配送するもので、グループ会社のそらいいな(長崎県五島市)を通じてスタートした。

豊田通商が資本業務提携する米ジップライン・インターナショナル(カリフォルニア州)の機体を使用。同社には18年に出資し、それ以降、ガーナでの医薬品配送などで協業を推進してきた。

伊藤忠商事は資本業務提携する独ウイングコプターのドローンを使用した物流の実証実験を11月以降に始める。事業化する場合、都市圏上空の飛行を想定する。安全対策を徹底した上で、豊田通商と同様に医薬品や医療品など社会的に受容性があり、緊急性が必要なものを取り扱う方向だ。

ウイングコプターのドローンは物流に特化したもので、伊藤忠商事は「ゲームチェンジャーになり得る」と期待する。

【損保】リスク対策、幅広く需要取り込む

有人地帯での飛行が可能となり、ドローンが人に衝突してケガをさせるなどのリスクの高まりが懸念される。損害保険業界では、リスクは保険販売のチャンス。各社とも虎視眈々と商機を狙う。

有人地帯での飛行が可能となり、ドローンが人に衝突してケガをさせるリスクが懸念される。損保各社は保険販売の商機を狙う(イメージ)

三井住友海上火災保険は補償内容をシンプルにした法人向けドローン保険を10月に発売する。機体の損壊や他人への衝突事故など基本的な補償に特化し、墜落したドローンを探す「捜索・回収費用保険金」などの補償は付けない。補償内容を簡素にして保険料を従来より9%程度安くし、ドローン保険の加入事業者を増やす。

東京海上日動火災保険はドローン保険の加入や保険金請求が行える専用ウェブサイトを22年度内に構築する。通常の紙での申し込みよりもデジタル化で利便性を高め、同業他社より先行したい考えだ。

損害保険ジャパンは法改正で新しいドローンの活用法を検討する企業が増えると予想。グループのSOMPOリスクマネジメントと連携し、保険提案にとどまらず、リスク対策マニュアルの策定まで幅広く需要を取り込んでいく。あいおいニッセイ同和損害保険は有人地帯での「自動飛行」のドローン需要が顕在化してくると分析。自動飛行ドローン専用の保険開発を急ぐ。

日刊工業新聞2022年9月30日

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