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宇宙機器を月の砂塵から守るすごいシールの性能

宇宙機器を月の砂塵から守るすごいシールの性能

(左)メカニカルシール(右)シール一体型軸受(JAXA提供)

宇宙での活動は、ますますその領域を拡大し活発化することが予想され、現在、多くのプロジェクトが計画されている。月面をはじめとする重力天体での探査活動においては、極高真空や極限温度環境、放射線などのさまざまな環境因子が宇宙機器に影響を与える。特に、月の表面に大量に存在するレゴリスと呼ばれる砂塵(さじん)は大きな問題となる。月の砂は大変細かいものが多く、粒子の平均的な大きさはおよそ70マイクロメートル(マイクロは100万分の1)であり、表面がゴツゴツと尖った形状で、極めて硬いなどの特徴がある。レゴリスが電子機器や駆動機器に入り込むと機器の故障や不具合を引き起こし、ミッションの失敗に直結する。

特に駆動機器の回転体においては、回転する軸と固定部とのすき間や軸受からのレゴリスの侵入を防ぐため、シールと呼ばれる部品が必要になる。真空中で大きな温度差がある中で粉塵(ふんじん)を封止(シール)することに大きな難しさがあるとともに、軸は限られた電力で駆動するため、シールによる抵抗は可能な限り小さくする必要がある。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、これまで月面での粉塵対策として、耐摩耗性材料・コーティングの研究や粉塵シールの研究を行ってきた。粉塵シールについては、軸を締め付けてシールする方式では、摩擦によりトルクが大きくなるほか、温度の影響を受けやすいことから、回転する円板にリング状の部品を押し付けてシールする方式(フェースシール)が有効である。軸用のシールとしては、シールメーカーと共同で金属製のベローズ(蛇腹構造を持った伸縮管)を使用したメカニカルシールの開発を進めている。シール面には耐摩耗性と低摩擦を考え、セラミックスと固体潤滑剤の組み合わせを選択した。軸受用のシールについては、軸受メーカーと共同でリング状の樹脂複合材を軸受端面と摺動させる方式やフェルト材を使用したシールの評価を進めてきた。フッ素樹脂製のフェルト材による優れたシール性能を確認しており、シール一体型軸受の開発を進めている。

今後、月面探査などのプロジェクトの活性化に合わせ、適材適所のシール方式・材料の選定と軸径などに合わせた最適化を進め、月面ローバーやサンプルリターンミッションの駆動機器への適用を進めていく。(月曜日に掲載)

研究開発部門 第二研究ユニット 研究領域主幹 松本康司

航空宇宙技術研究所(JAXAの前身の一つ)の頃より宇宙用潤滑剤・機構部品の研究に従事。基盤技術の研究により全ての宇宙開発を支えることを目標に業務に取り組んでいる。博士(工学)。

日刊工業新聞2022年4月18日

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