災害情報を電子データ共有、JAXA「D-NET」進化の道筋
地震や豪雨などの災害時には多数のヘリコプターが情報収集、捜索・救助、物資輸送などの任務で飛行する。2011年の東日本大震災では、1日当たり最大300機のヘリコプターが被災地周辺で活動した。この際、ヘリコプターと運用拠点(空港、ヘリポート)の間は航空無線による音声通信、運用拠点と災害対策本部の間は電話やFAXなどで情報のやりとりが行われた。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)で研究開発を進めている「災害救援航空機情報共有ネットワーク(D-NET)」は、ヘリコプターと対策本部などの間で、災害情報や任務情報などを電子データとして共有化し、救援活動をより効率的かつ安全に実施するためのシステムである。
D-NETの研究開発事業は第1期(11―14年)、第2期(13―17年)、第3期(18―23年予定)と進めてきた。第1期ではヘリコプターと対策本部などの間で衛星回線を用いてデータ通信を行う基本システムを開発し、14年から総務省消防庁で運用が開始された。
第2期では機体への搭載工事が不要な持込型機上システムを開発し、全国の消防防災ヘリコプターに普及した。地上システムとして、対策本部に設置してさまざまな防災リソースの情報を統合化可能なD-NET IP、汎用ブラウザーからD-NETにアクセス可能なD-NET WEBなどを開発した。これらのシステムは熊本地震(16年)や九州北部豪雨(17年)において、被災地におけるヘリコプターの運航管理や、被災地・県庁・中央省庁間の情報共有に活用された。
現在の第3期では、自然災害のみでなく、警備・警戒など、幅広い危機管理に対応可能な機能の開発を進めている。21年の東京五輪・パラリンピックにおける空域統制では、警察庁への技術協力により、全国40カ所の競技会場周辺において500機を超える政府機と民間事業機の運航計画調整や飛行状況監視がD-NETで行われ、警備や報道などの目的で飛行する航空機の安全かつ効率的な運航、ならびに制限空域を許可なく飛行する不審機の早期発見が可能となり、大会の円滑な運営に貢献した。
第3期の成果を「航空機運用統合調整システム」として実用化し、危機管理に関わる政府機関(内閣官房、内閣府、防衛省、海上保安庁、国土交通省など)や自治体への普及を目指すとともに、D-NETの技術を飛行ロボット(ドローン)や空飛ぶクルマなどの次世代エアモビリティにも利用拡大し、安全・安心で利便性の高い社会の実現に貢献したい。
航空技術部門 航空利用拡大イノベーションハブ 災害・危機管理対応技術チーム長 奥野善則
90年航空宇宙技術研究所(現JAXA)入所。実験用ヘリコプターを用いた飛行安全技術などの研究、次世代運航システム(DREAMS)研究開発プロジェクトなどに従事。16年から名古屋大学客員教授兼務。