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「問診」カルテの作成にAIを活用して生み出すメリット

下書き作成、医療従事者の負担軽減
「問診」カルテの作成にAIを活用して生み出すメリット

患者が入力した問診票の回答を基に、AIが自動で電子カルテの下書きを作成する。医師のカルテ作成時間を削減する効果がある

国立病院機構名古屋医療センター(名古屋市中区)は、電子カルテの作成に人工知能(AI)の活用を進める。タブレット端末を用いて診察前の問診を行い、得られた回答を基にカルテの下書きを自動的に作成する仕組みだ。「初診時のカルテ作成時間が5分から2分程度に減った」(内科医)という。AI活用を進めることで、医師や看護師ら医療従事者にしかできない仕事に専念できる体制を構築する。

「今日はどうしましたか」。診察室に入った時、毎回のように聞かれるこの台詞がなくなる日が来るかもしれない。名古屋医療センターでは、診察前に患者自身が「めまいがする」「熱がでた」などの症状をタブレット端末に入力するとAIがカルテに自動で反映する。

患者が診察室に入ったときにはすでにカルテの下書きが完成しており、医師はカルテを前提に的確な質問・診断をし、より短時間で治療方針を確定できる。症状に応じて医師が質問する内容を表示し、診察時に確認するポイントを漏らしてしまうのを防げるという。

約2000人の医師が監修した医学情報のデータベースと連携しており、診断や治療方法などに関わる情報をカルテに表示することも可能だ。

名古屋医療センターは医療従事者の負担軽減や診療の質向上を目指してAI活用を決めた。医療機関向けの診療支援システムを手がけるプレシジョン(東京都文京区)と電子カルテを提供する富士通の3者で連携し、2021年11月から12月末まで実証実験を行い有効性を検証した。

一般的に医師は問診票で不足する情報を患者に確認し、知識や過去の経験を参考にして診察する。そのため、問診票の内容と追加確認した情報を整理した上でカルテに手入力する必要があった。

実証で活用したシステムはAIが問診内容を基に下書きするため、追加確認した情報を入力すればカルテが完成する。医師による作成時間が短縮できる。医学情報のデータベースも診察の参考にできるため、「医療の安心と安全を高められる」(佐藤寿彦プレシジョン社長)という。システム内に記入漏れをチェックする機能もあるため、再度の回答を促す看護師の仕事も減らせる。

実証では、新型コロナウイルスなど感染症の疑いがある患者をシステム内で早期判断することも検証した。他の患者との接触時間を減らす効果が期待される。名古屋医療センターは実証結果の検証を進めながら、利便性の高さからすでにシステムを活用する。一方、プレシジョンなどは5月の実用化を目指す。(永原尚大)

日刊工業新聞2022年3月18日

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