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医薬品をドローンで届ける。『空飛ぶ流通』実現なるか

医薬品をドローンで届ける。『空飛ぶ流通』実現なるか

愛知県南知多町の離島「篠島」に着陸したドローン。約14キロメートル先の河和港(同美浜町)から医療用医薬品が運ばれてきた(愛知県提供)

飛行ロボット(ドローン)が医薬品流通の在り方を変えるかもしれない―。政府は診察から患者が薬を受け取るまでの医療の流れをデジタル化する方針を掲げる。その一翼として期待されるのが、医薬品を物流の最終拠点から、オンライン診療を受けた患者の手元まで届ける「ラストワンマイル」をドローンが担う構想だ。足元では医薬品をドローンで運ぶための制度設計が整備されつつあり、全国で実証実験が進む。山間部や離島など過疎地が抱える課題の特効薬となり得るか。ドローン物流の現在を追った。(名古屋・永原尚大)

山間部・離島など緊急配送 【社会実装つなげる】

2020年11月12日。愛知県美浜町の河和港から、医薬品を載せたドローンが飛び立った。大海原を渡って向かうのは南東約14キロメートル先にある篠島(愛知県南知多町)。いわゆる離島だ。高度約50メートルを時速約50キロメートルで飛行し、薬を待つ島民役に向かって約20分の旅路を進んだ。

愛知県や名古屋鉄道、日本調剤などが参加したこの実証は、オンライン診療と服薬指導を受けた患者に向けた医薬品配送の事業性や安全性の検証が目的だ。県担当者は「ドローンの活用機会を明らかにし、社会実装につなげる」と狙いを語る。

長崎県五島市では3月、ANAホールディングス(HD)や武田薬品工業などが共同で実証を行った。同市の福江島港から16キロメートル先の離島に、医薬品を約10分で運んだ。オンライン診療・服薬指導をした後の配送のほか、医薬品卸から医療機関へ緊急配送する事例も検証した。

ドローンは都心部での輸送手段としても期待される。東京都は聖路加国際病院(東京都中央区)と医薬品卸のメディセオ(同)の拠点間で、医薬品を配送する実証に乗り出す計画。実証にはKDDIや日本航空(JAL)などが参画し、都心部でのドローン物流の可能性を探る。まだ飛行開始に至っていないが、医薬品物流の新たな手段としての実装が待たれる。

調査会社のインプレス総合研究所によると、医薬品を含めた国内のドローン物流市場は25年度に19年度実績比約53倍の797億円となる見通し。デジタル化する医療を追い風に、空飛ぶ医薬品流通が実現する日も近い。

航空法改正で広がる可能性 【一気通貫のオンライン医療】

医療のデジタル化に向けて、規制改革は着実に進展している。政府が6月に閣議決定した「規制改革実施計画」には初めて、「一気通貫のオンライン医療の実現に取り組む」と明記された。

22年夏にも電子処方箋システムを導入する計画で、薬局に行かなくても薬が受け取れる仕組みづくりを検討する。これにより、オンライン診療から服薬指導、調剤された医薬品の自宅配送まで一貫したオンライン医療サービスの実現が可能になる。ドローンによる医薬品配送は、往診や再診で処方された医薬品、医薬品卸から病院への輸送といった場面で活躍することになりそうだ。

一方、オンライン診療の「初診」について、日本医学会連合は「問診と画面越しの動画のみで診断を確定することのできる疾患はほとんどない」と提言している。一気通貫のオンライン医療の実現には、超えるべき障壁が多いのも実情。安心・安全な医療のデジタル化に向けて、緻密な制度設計と検証が欠かせない。

ドローン物流のルール整備をめぐっては、6月に成立した航空法改正案で、有人地帯での目視外飛行(レベル4)の制度が盛り込まれた。22年冬にもレベル4が解禁される見通しで、実現すると産業活用の幅はさらに広がる。

医薬品配送も同様だ。厚生労働省は6月、「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」を公表。温度管理など品質の保持や薬剤師による服薬指導の実施、航空法上の責任主体の明確化などを求めた。各地で実証実験が進むことを受け、指針を定めたという。

インタビュー/日本UAS産業振興協議会理事長 東京大学名誉教授・鈴木真二氏 災害時の孤立集落でも活躍

ドローンの産業振興や市場創造の支援に取り組む、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)理事長の鈴木真二東京大学名誉教授に、ドローン物流の優位性や今後の展望などについて聞いた。

―産業利用の機運が高まっている背景は。 「(物流の最終拠点から)荷物を自宅まで届ける『ラストワンマイル』の工程を、人手不足の中でどうやって継続するのか。その一つの解がドローンとなる。山間部や離島といった過疎地域でモノを届けるニーズは年々高まっており、ドローンをはじめ、さまざまなサービスが検討されている」

―ドローンによる医薬品配送のメリットは。 「山間部や離島では薬をもらうために、山を降りたり海を渡ったりする必要があり大変だ。そうした場所に、日常的に薬を届けられれば住民の負担が減る。ほかにも、災害時に孤立した集落へ運ぶときにも活躍する」

―海外でのドローンの活用状況は。 「スイスは国として活用に力を入れている。山や湖など地域的な課題があり、航空当局は導入に熱心だ。15年にはスイスの郵便局が医薬品の緊急配送テストを実施した。ほかにも米国のZipline(カリフォルニア州)が輸血用血液製剤を届けるサービスをアフリカで事業化した」

―産業利用するための課題は。 「ドローンが社会に存在している前提で法律がつくられていない。地域を限定して日常的に産業活用するなど実際に使って問題を洗い出すことで法整備が進んでいくだろう」

*取材はオンラインで実施

日刊工業新聞2021年8月23日

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