宇宙飛行士・若田光一さんが明かす、ISSで生かされた前職・日本航空で得た技術
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は13年ぶりに宇宙飛行士の新規募集をはじめた。今回は学歴や専門分野が不問など条件を緩和した。そこで前職が異なる3人のJAXA宇宙飛行士に、選抜試験で印象的だったことや宇宙飛行士に必要な素養などを聞いた。初回は民間企業出身の若田光一さん。
―前職は日本航空の整備技術者でした。
「大学生の時にジャンボジェット機の墜落事故を見て、航空機を安全に飛ばす仕事がしたく日本航空に入社した。飛行機の構造整備や点検作業などの整備技術士を3年間務め、航空機を支えることに生きがいを感じた。宇宙飛行士は宇宙開発を進める上での“縁の下の力持ち”であり、これから発展する分野を支えたかった」
―企業で得た技術が生かされた場面は。
「国際宇宙ステーション(ISS)は建設から20年以上経過しており、定期的にメンテナンスが必要な状況にある。整備の基本は宇宙と地球上では変わらない。そのため会社員時代に培った整備書を見て手順良く作業する技術や、電子回路の修理の基礎などが今でも役に立っている」
―宇宙飛行士に必要な能力は何ですか。
「ISSでは自身の専門分野以外の科学実験を担当することがほとんどだ。宇宙飛行士はあくまでオペレーター。地球上の研究者の目となり手となって冷静沈着に手順書を正確に理解して効率的に実験を実施できることが求められる。そのため理系の専門知識が高くても緊急時などに正しい判断ができない人よりも、文系でも判断力があり手順書通りに仕事ができる人の方が向いているだろう」
―3次試験のグループワークがユニークだと聞きました。
「『牢獄から脱出する方法の立案』というテーマで、看守や武器などの刑務所内の情報が与えられグループで脱獄計画を立てるという課題だった。限られたデータとリソースから課題解決を進める中で、状況判断や調整能力、効率性を評価したとみている。生産性研修で教わった『トレードオフ手法』を使い計画を立案した」
【記者の目/企業で幅広い教養培う】 宇宙飛行士の募集は数年に一度しかない。その間に企業に就職して技術力を付けつつ選抜試験のチャンスを狙う人は多い。企業では生産性向上や財務関連など、技術以外の物事を広い目で捉える力も取得できる。宇宙飛行士には状況判断や正確さなども求められる。企業で培った教養は宇宙開発の現場でも生かされるだろう。(飯田真美子)