【ディープテックを追え】認知症を早期発見。AIで見落とし防ぐ
認知症の早期発見や診断、治療を支援する人工知能(AI)を開発するスタートアップ、Splink(スプリンク、東京都千代田区)。青山裕紀社長は「認知症の早期発見を支援し、共生できる病気にしたい」と話す。
経験や勘に依存する、認知症の診断
「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)による速報値では、2012年における認知症の有病者462万人に対して、25年には約700万人にのぼると推定される。65歳以上の高齢者のうち、認知症の高齢者が増加すると推計される。
認知症は検査による予防や早期発見によって認知機能の低下を緩やかにすることができる。ただ、診断の要因となる変数が多く、医師の経験や勘に依存してしまう。認知症の見落としにより、早期発見が遅れるケースがあったという。また、専門医が少ないというリソース不足も抱えている。スプリンクはこの課題に対して、AIによる画像認識を使い、認知症の予防から診断、治療まで一貫して支援するソリューションを提供する。
利用シーンで使い分け
認知症予防を目的にした「Brain Life Imaging」(ブレインライフイメージング)と、診断や治療を支援する「Braineer」(ブレイニア)などを展開する。
ブレインライフイメージングは脳の記憶をつかさどる「海馬」の体積を測定し、可視化する。頭部の磁気共鳴断層撮影装置(MRI)で撮影した海馬領域をAIで分析する。解析データを蓄積することで、経年変化を受診者にもわかりやすくする。また、同年代の診断結果と比較することで、生活習慣の改善に役立てられる。すでに新百合ケ丘総合病院(川崎市麻生区)などでは、脳の疾患リスクを検診する「脳ドック」で採用されている。
ブレイニアは頭部MRIデータから脳の萎縮を数値化することで診断を支援する。これまでは医師の知識や経験によってブレがあり、認知症を見逃すケースがあった。ブレイニアは脳のバイオマーカーを定量化し、再現性を持たせる。目視では気付かない脳の状態を評価することを支援する。青山社長は「脳の状態を解析するAIは病理診断を教師データにして、セグメンテーションの精度を上げている」と説明する。
同社は医師の認知症への知識に応じて、脳ドックなどにはブレインライフイメージング、診断にはブレイニアというように、製品を使い分けることを想定する。
拡販と機能開発を深化
21年11月には、ジャフコグループなどから約11億円の資金調達を実施。主にブレインライフイメージングの拡販とブレイニアの機能向上に使う。現在数十社が導入するブレインライフイメージングを22年までに100社ほどまで拡大することを目指す。併せて企業規模も拡大させる。
また、東京都健康長寿医療センター(東京都板橋区)と連携し、認知症の原因になるとされるたんぱく質「アミロイドβ」を解析するシステムを開発する。陽電子放射断層撮影(PET)装置の検査画像を基にアミロイドβの蓄積状況の把握を目指す。これまではパーキンソン病などの他の神経疾患でもアミロイドβが蓄積するため、見極めが難しかった。同社は過去の症例を使い、認知症特有のアミロイドβが蓄積する場所や量の傾向を学習させ、判断できるようにする。
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