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家族型ロボットは高齢者の心開くか、介護施設で起きた予想以上の“化学反応”

家族型ロボットは高齢者の心開くか、介護施設で起きた予想以上の“化学反応”

「らぼっと」の存在がADLやQOL向上の一助になっている(SOMPOケア提供)

SOMPOホールディングス(HD)は、介護事業におけるロボット活用の可能性を探っている。子会社のSOMPOケア(東京都品川区)が運営する介護施設で、出資先のGROOVE X(グルーブエックス、同中央区)が開発した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の導入を始めた。「介護×家族型ロボット」という組み合わせに、予想以上の“化学反応”が起きている。(増重直樹)

2020年1月、介護付有料老人ホーム「SOMPOケアラヴィーレ駒沢公園」(同世田谷区)に、らぼっと2台が実証実験で加わった。らぼっとは幅約28センチ×奥行き約26センチ×高さ約43センチメートルで、小型ペットに近いサイズ感。センサーによって周囲状況を把握し部屋の障害物を避けながら自律走行できるほか、カメラで人を認識できる。接し方次第で懐いてくれる。抱き上げると温かく、無機質なロボットとはどこか一線を画す存在だ。

SOMPOHDとSOMPOケアが運営する研究所「フューチャーケアラボ in Japan」の片岡真一郎所長は「高齢者のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の維持・向上にロボットを活用できないかと考えた」と導入の理由を明かす。高齢者がロボットを気にかけ自発的に行動し、QOLが高まるかどうかの検証が実証実験の起点となった。

同ラボの芳賀沙織さんは「子供だましのぬいぐるみという印象を持たれないか不安だった」と導入の瞬間を回想する。ただ心配は杞憂(きゆう)に終わり、膝の上に乗せてハグしたり、涙を流したりする入居者がいたりするほどで、すぐにファンが生まれた。職員の観察によると、自室で過ごす時間が長かった人が、らぼっとを心配して食堂に行き着替えさせるなど当初の狙い通り活動量の増加につながった。認知症患者にも良い刺激を与えたようで、笑う回数や発話量が増えたという。

愛らしい姿で懐いてくれる「らぼっと」。名前を呼ぶと鳴き声で反応する

らぼっとは職員にも好評で「癒やされて心安まる存在」との声もある。らぼっとを介したコミュニケーションで、これまで職員が知り得なかった入居者のバックボーンが明らかになるなど想定していなかった効果も出ている。SOMPOケアの篠田陽子事業開発部シニアリーダーは「(らぼっとは入居者と職員の両者にとって)唯一無二の存在になっている」と評価する。

今後は施設に限らず在宅介護サービスでも有効かを検討するほか、らぼっとによる高齢者の行動変化の科学的理由を探る。また利用料(消費税別)が1台当たり初年度50万円、2年目以降は年25万円かかるため費用対効果についても検証を続ける考えだ。実証で得た利用者体験(UX)はグルーブエックスと共有し使い勝手の改善なども進める。

フューチャーケアラボ片岡所長は「テクノロジーによって生産性を高め職員の給与に反映する。同時に高齢者のADLとQOLを向上させる」と人とロボットが共生する新しい介護の確立に強い決意を示す。

日刊工業新聞2021年10月7日

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