130年の歴史持つ「神栄」、不採算事業からの相次ぐ撤退で急ぐ体制整備の中身
食品、物資、繊維分野の商社として130年超の歴史を持つ神栄。電子部品メーカーとしての側面もあり、ほこりセンサーは空気清浄機向けで世界トップシェアを誇る。近年はアパレル小売りや農業などの不採算事業から相次いで撤退。一方で経営資源をセンサーなどの強みに集中投資し、分野間シナジーを出しやすい体制整備を急ぐ。
繊維分野では、アパレル小売りやレッグウエアを手がける完全子会社の神栄ライフテックスを2020年に解散。自社店舗での販売という経営スタイルは、神栄グループの中でも異色だった。同事業は企業買収による参入であり、神栄本体とは異なる独自の経営体制が続いていた。また食品分野では、10年に農業事業へ参入したが一度も黒字化できず、統括する神栄アグリテックの全株式を21年8月に売却。両子会社とも野心的な新規事業ではあったが「他事業とのシナジーをうまく出せなかった」(赤沢秀朗社長)。
一方で電子分野は事業再編が奏功した。19年、スマートフォン向け落下・衝撃試験機を生産する神栄テストマシナリーを、センサー事業の神栄テクノロジーに吸収合併。そこで開発した物流用温度ロガーが、新型コロナウイルスワクチンの輸送・保管用に採用された。依頼からわずか2カ月で量産体制を整備。赤沢社長は「技術の補完によって経営スピードを上げたからこそ実現できた」と実感する。
電子分野のうちコンデンサー事業は、60年代にポリプロピレンフィルムタイプを開発するなど、業界でも先駆的な存在だ。だが同事業はこれまで分社、他事業との統合、再び分社といった歴史を歩んだ。「コンデンサーは他の事業と違う。分けた方がわかりやすい」(赤沢社長)と、現在は神栄キャパシタが統括する。統合によるコスト削減と製品開発強化の間で、模索した苦労が垣間見える。
最近ではワクチン輸送用で実績を積んだ温度ロガーを、食品輸送用にも提案し始めた。グループの方向性を明確にしたことで、今後は分野間シナジーを加速していくことが求められる。