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漁業のジェンダー問題を解決する。「漁する女子ジャパン」の狙い

漁業のジェンダー問題を解決する。「漁する女子ジャパン」の狙い

漁協関係者から漁の説明を受ける「漁する女子ジャパン」教育プログラムの参加者

ジェンダー問題・後継者不足解消

漁業のジェンダー問題や後継者不足の解消を目指す活動が立ち上がった。小規模漁業・沿岸漁業の研究者らと清水漁協用宗支所(静岡市駿河区)などは、女性の有志を募って漁業の現状について学ぶ体験型教育プログラム「漁する女子ジャパン」を発足した。月に1回集まり、座学講義や釣りなどの体験イベントを行い、女性の漁業への関心を高める方針だ。 (大城麻木乃)

「漁業を持続可能にするため、我々は網ではなく、1本釣りで漁を行っています」―。

11月下旬、清水漁協用宗支所で行われた漁する女子ジャパンの教育プログラム。同名の活動を行うカナダ東海岸のニューファンドランド島にいるメンバーから、現地のタラ漁に関するレクチャーがオンラインで行われた。漁の様子を流す動画付きの説明に、参加者は熱心に耳を傾けていた。

同プログラムは、カナダの活動に感銘を受けた小規模漁業の研究者、東海大学海洋学部の李銀姫准教授が主導して10月に発足した。カナダの漁業事情に加え、シラス漁が盛んな清水漁協用宗支所の仕事内容を学んだり、乗船して実際に釣りを体験したりする。8歳から80歳までの女性なら誰でも参加可能な活動だ。

沿岸、沖合、遠洋の漁業のうち、日本では8割が沿岸漁業で、うち9割が家族経営と、小規模漁業が主流になっている。漁業の従事者(海面漁業)は、1993年に32万人だったのが、18年には15万人台に半減。同時期に女性の割合は、18%から11%へと減少した。高齢化も深刻さを増しており、日本における漁業の持続可能性を確保するために、活動を通じて漁業の担い手を育てる意向だ。

インタビュー/東海大学海洋学部准教授・李銀姫氏 活動の輪広げ、就職先増やす

漁する女子ジャパンを主導する東海大学海洋学部の李銀姫准教授に活動の狙いなどを聞いた。

―なぜ活動を始めたのですか。

「海外の海洋関連の学会に参加すると、ジェンダー問題は主要なテーマの一つになっている。例えば、女性が使いやすい釣りざおなどが研究されている。だが日本ではまったく議論されていない。まず漁業にジェンダーという視点を取り込みたいと思った」

「男性の漁業従事者の意識改革を促すことも理由の一つだ。地域によっては漁協に女子トイレがなかったり、船にはそもそもトイレ自体がなかったりする。男性だけなら不都合はなかったことが、今後、女性をもっと受け入れるとなると、環境整備が欠かせない。どのような受け入れ環境が必要なのかも議論していきたい」

―特にどのような女性の担い手が必要ですか。

「海面漁業の担い手だ。日本では港で荷さばきをする陸上作業には、女性の担い手も多い。そのほとんどが漁師の妻だ。だが、海女を除き、漁師そのものが女性というケースが極端に少ない。乗船し漁をする女性を増やしたい。そのために、釣りの体験プログラムを盛り込んでいる」

―漁業に関心を示す女子は出てくるでしょうか。

「静岡県内のある水産高校にヒアリングしたところ、女子生徒で入学を望む声も一定数、あるとのこと。だが現状は卒業後に女子の就職先がないために、入学を断り、男子校になっているそうだ。せっかく漁業に興味を持つ女子はいるのに断るのは惜しい。もっと活動の輪を広げ、女子の就職先を増やしたい」

―今後の目標は。

「『漁する女子北海道』や『漁する女子東京』など他地域にも活動を広げ、全国的なムーブメントにしていきたい」(取材はオンラインで実施)

日刊工業新聞2021年12月3日

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