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「主力電源化の徹底」目指す再生可能エネルギー。普及拡大へ克服すべき多くの課題

「主力電源化の徹底」目指す再生可能エネルギー。普及拡大へ克服すべき多くの課題

東京電力ベンチャーズなどがアークランドサカモトのホームセンタームサシ名取店(宮城県名取市)に導入したオンサイトPPAの設備

エネ基本計画、今秋閣議決定

わが国のエネルギー政策の方向を示す第6次エネルギー基本計画は、10月初旬までのパブリックコメントを経て今秋にも閣議決定される。菅義偉首相の「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)」宣言を受け素案作成は難航。焦点となった30年度の電源構成は、再生可能エネルギーが19年度実績の2倍以上となる36―38%で「主力電源化の徹底」が明示された。ただ、再生エネの普及拡大には多くの課題を克服する必要がある。(編集委員・板崎英士)

【日本のハンディ】国またぐ送電線なし/太陽光の適地に限界

エネ基素案では、エネルギー政策の基本的な視点「Sプラス3E(安全性、安定供給、環境適合性、経済効率性)」は堅持された。30年度の電源構成では再生エネが増加し、火力発電は減少、原子力は現状維持だ。その結果、環境適合性は改善するが、安定供給と経済効率性の課題が拡大する。電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「再生エネは時間軸を考えると非常に野心的な目標。固定価格買取制度(FIT)賦課金などにより国民負担の増加も考えられる」と指摘する。

再生エネ拡大の視点で見ると、日本は欧米より二つのハンディを背負っている。一つは島国のため、国をまたぐ送電線網がないことだ。電気は蓄電池や揚水発電以外では貯められず、発電量と利用量のバランスを常に取る必要がある。需給バランスが崩れると周波数や電圧が不安定となり、大規模停電を引き起こす。発電量が不安定な太陽光や風力などの再生エネを大量導入した際の需給調整も国内で完結せざるを得ない。基幹系統の増強や、発電事業者が接続する際のルールの見直しが求められる。

これまで系統接続は先着順で接続容量を確保するルールだった。これでは枠が埋まれば再生エネ事業者などの新規参入が難しくなるため国は21年1月、空き容量のない基幹系統に限り、混雑時の出力制御を条件に接続するノンファーム型接続を適用した。東京電力パワーグリッドは4月に関東の10のローカル系統でもこのルールを導入。「今は混雑していなくても、数年後には確実に容量不足になる」(岡本浩副社長)と決断した。3カ月後のエネ基素案には「今後ローカル系統にまで早期に拡大する」と書き込まれた。ただ、新規参入事業者にとっては系統が混雑する需要期に接続を止められれば採算性が悪化する。

火力の高効率・低炭素化が急務

同時にこうした再生エネによる需給バランスの補完には、系統増強だけでなく慣性力、同期化力、調整力にたけた火力電源の安定稼働も欠かせない。国は低効率火力発電の退役を決めており、火力発電の高効率化、低炭素化を急ぐ必要がある。

二つめは地理的制約だ。国土が狭く山岳国の日本では、太陽光発電をこれ以上設置する適地は少ない。太陽光発電は12年のFIT導入で一気に普及した。累積導入量は世界3位、面積当たりでは首位だ。だが山林伐採による災害や、FIT終了後に設備が放置されるのではといった懸念もある。このため国は住宅や中小工場への設置に重点を変えつつある。

また、発電事業者が設備を顧客企業の敷地に無償設置し、電気を顧客が購入する「オンサイトPPA(電力販売契約)」という事業モデルも出てきた。東京電力ベンチャーズとシャープエネルギーソリューションがアークランドサカモトの店舗に導入した例では、年に約138万キロワットを発電する。太陽光発電の増加には、こうしたモデルの普及が不可欠だ。

洋上風力、浮体式を研究

風力発電も国内での拡大にはハードルが高い。陸上の適地は減り、今後は洋上発電が中心になる。遠浅の海が続く欧州では着床式の風力発電が普及しているが、日本の海岸線は急に深くなっており着床式には不向きで、浮体式発電を推進するしかない。

電力や商社などが欧米企業と組み、浮体式の研究開発を進めている。また、海岸線の状況が近い台湾などでの実証も増えている。例えばJERAは18年から台湾・フォルモサのプロジェクトに参加し、世界有数規模の浮体式発電に取り組む。中国電力も「台湾の洋上風力への出資で得られた知見を生かし(国内の)開発に生かす」(清水希茂社長)とする。日本では台風や津波に対する安全性の確保やコスト引き下げが課題だ。漁業権や景観破壊といった問題もあり、国民的な合意を得るには時間がかかる。

JERAが台湾で参画する洋上風力「フォルモサ1」

【複合的な政策を】

戦後の発電を支えてきた水力発電も再生エネの一つだ。今は気象予報が向上し計画的に発電できるが、新規立地は難しい。このため各社は設備能力を増強するリパワリングに取り組む。例えば61カ所の水力発電所を持つJパワーは、独自形状の水車翼を開発し田子倉発電所(福島県只見町)で実証に乗り出した。数%の効率向上という地道な取り組みを進めている。

また、上下にダムを持ち電力の安い時間に汲み上げ、電力需要が増える時に発電することで蓄電池の役割を果たす揚水発電も見直されている。東京電力リニューアブルパワーは、発電する権利を新エネ事業者などに販売し安定供給を支援する「電力預かりサービス」を始めた。また「他社の水力や太陽光、風力発電所の設計から建設、運用までを手がけるプラットフォーム(基盤)を近く構築する」(文挟誠一社長)考えだ。

Jパワーは流体技術を用いて自社開発した歯車に取り替え発電効率を向上させる(田子倉発電所=福島県只見町)

水力・地熱・バイオマス 併用を

この他、再生エネとして期待されるのは地熱発電やバイオマス発電。火山国の日本は世界3位の地熱資源量を持つ。発電量に昼夜の差や季節変動がない安定電源で、比較的コストも安い。地産地消型で災害時の対応も期待できる。一方で「温泉が枯渇するのでは」と反対する声も多い。科学的な検証を基にした地域の理解、自然公園法や温泉法のクリアも必要だ。50年以上の歴史を持つが実用化されているのは20カ所程度。発電量は1%に満たず資源は地下で眠っている。

バイオマス発電も同じような状況にある。森林国の日本では、各地で間伐材などを燃料とした発電が有望視され、過疎地の産業として地域経済や雇用への期待もかかる。木材産業が盛んな大分県日田市のグリーン発電大分は、未利用間伐材などで出力5700キロワットの能力を持ち、二酸化炭素(CO2)をトータルで年間1万7000トン削減する成果を挙げている。ただこうした例は少数。原料を輸入に頼るケースも多く安定供給も課題だ。

電力業界の安定 難しい局面

世界の潮流は脱炭素で、日本も再生エネに向かわざるを得ない。一方で、国内のエネルギー市場は自由化で混沌とした状況にある。1月に液化天然ガス(LNG)不足から電力需給が逼迫(ひっぱく)したように、容量市場がスタートする24年までは綱渡りが続く。現在、経済産業省に届けられた発電事業者は991社。ただ、発電所を持たない新電力や太陽光関連事業者の倒産も後をたたない。そうした業界の安定と脱炭素をいかに両立させるか難しい局面にある。

脱炭素に向けては、太陽光や風力だけでなく、資源を持つ地熱やバイオマス発電を大幅に増やすことが必要になる。さらに調整力電源となる石炭火力の高効率化、CO2を排出しない安定電源としての原子力の強化、こうした複合的な政策を進めることが日本にとって最適解となる。

日刊工業新聞2021年9月28日

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