大和ハウス・関西電力・JR西日本…異業種が陸上養殖に相次ぎ参入のワケ
大和ハウス工業は、富士山麓の静岡県小山町に年間の出荷重量にして約5300トンのアトランティックサーモンを生産できる国内最大級の陸上養殖施設を2023年度に完成させる。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成機運が高まる中、魚の安定供給を実現する陸上養殖は、23年の国内市場規模が18年比74%増の約87億円に成長すると見込まれる。関西電力、JR西日本など水産業と接点が見えにくい異業種も、各社の強みを生かして陸上養殖市場に参入している。(大阪・池知恵、同大川藍、編集委員・錦織承平)
【漁業の工業化】
大和ハウスが陸上養殖事業に関わるのは今回が初めて。ノルウェーの養殖事業会社であるプロキシマーシーフードが約170億円を投じる静岡県の新工場建設を請け負う。創業から建築の工業化を掲げる大和ハウスは、植物工場のユニット化など農業の工業化にも取り組んでおり、「次は漁業の工業化に挑戦する」(東京本店建築事業部第四営業部の石原聡次長)という。
今回、建設する陸上養殖施設の延べ床面積は2万7901平方メートル。物流・商業施設、工場などの建築で培った技術を生かし、外壁の断熱、ホコリや害虫の侵入を防ぐ陽圧管理といった養殖施設向けの工夫を盛り込む。実績を積んで、「今後、SDGsの観点からも陸上養殖施設の建設に携わっていきたい」(同)と語る。
【食もインフラ】
関西電力は20年10月にバナメイエビの養殖を手がけるIMTエンジニアリング(新潟県妙高市)と共同出資会社「海幸ゆきのや」(大阪市北区)を設立し、農業・食料領域の事業に初参入した。21年度中に年間生産量80トンの完全閉鎖循環式の陸上養殖プラントを静岡県磐田市で稼働する計画だ。
関電はエネルギー以外の新領域の事業開拓を進めており「食もインフラ」(秋田亮海幸ゆきのや社長)と捉えて次世代型養殖への参入を決めた。独自の水質管理技術やエビ養殖の経験が豊富なIMTの協力を得るが、「電力事業で培ったプラント運営・管理と品質維持の手法、デジタル技術を導入すればさらに成長する余地がある」(同)と見る。5―10年後には年間売上高10億円規模を目指す。
【地方創生に】
JR西日本は沿線人口の減少を背景に地方創生事業へ着手。第1次産業の活性策として地方の漁業者と提携した陸上養殖魚ブランド「PROFISH(プロフィッシュ)」を18年から展開している。
同事業を担当するJR西日本イノベーションズの石川裕章プロデューサーは陸上養殖のメリットについて「(陸上養殖は)自然災害や魚が逃げ出す可能性のある海面と異なり、環境の変化に耐えられて安定供給が可能」な点を挙げる。飲食店や百貨店を中心に販売してきたが、21年度は鳥取県倉吉市で養殖した淡水育ちの「クラウンサーモン」をラインアップに加える。新商品をテコに「プロフィッシュ」ブランドの認知度を高め、スーパーなど量販店への販売拡大を図る方針だ。