産業界での「磁性材料」開発、中性子の出番が来た理由

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中性子は磁気モーメントを持ち、波のように振る舞う粒子だ。そのため、物質内部にミクロな磁気的構造が潜んでいると回折され、軌道が曲がる。この特質ゆえに、中性子は現代磁性物理学の探求に欠かせない道具となってきた。さまざまな角度に回折される中性子を漏れなく検出できるよう、試料の周囲に高感度な検出器を並べた大規模な装置開発が進められてきた。

一方、モーターやハードディスクに使われる永久磁石の内部は、磁気的に一様でミクロな構造を持たないため、永久磁石の開発に中性子が利用されることは少なかった。ところが最近、これまでの永久磁石の枠を超えた新たな磁性材料の開発競争が始まった。磁性物理学で研究されてきたミクロな磁気構造をうまく使えば極低温での磁気冷凍の効率が大きく高まり、低コストでコンパクトな水素液化手段となり得ることが示唆されたのだ。これは産業界で磁性材料を開発する上でも、中性子の出番が訪れたことを意味する。

単純原理着目

だが、出番がきたとはいえ、学理探求のために究められた回折測定装置を日常的な分析にそのまま使うのは大がかりだ。そこで我々は試料で回折した中性子の分量だけ、透過した中性子の強度が減少するという単純な原理に着目した。

透過強度の測定は、試料の背後に検出器を一つ置くだけで良いので装置はかなり簡易になる。ただし、透過強度からはどちらの方向に回折されたのかという情報は得られない。この情報不足の懸念に対し、我々は実際にモデル物質で実験を行い、透過した中性子のスペクトルだけでも磁気構造を議論できることを明らかにした。

粉末試料の場合、この透過スペクトルは回折した角度によらないので、異なる方向から入射する中性子を同時に利用できる。中性子用の鏡を使って中性子線を試料にうまく集めることができれば、透過する中性子数は飛躍的に増え、材料開発の現場に設置できるような小型の弱い線源でも磁気構造解析が可能となると期待されている。

身近な道具に

一方、大口径の平行ビームの発生が可能な大型施設では多数の試料を並べ、それぞれの背後に検出器を置けば、並列測定による同時分析も容易に行える。このように磁気冷凍材料をはじめとした磁性材料の開発において、今後、中性子透過分光法は探索開始時の身近な道具として重宝されるだろう。材料の最適化や品質管理のための大量評価手段としても開発に必須の役割を担っていくに違いない。(水曜日に掲載)

物質・材料研究機構(NIMS)先端材料解析研究拠点中性子散乱グループ 主席研究員 間宮広明
1994年筑波大学大学院修士課程修了、同年科学技術庁金属材料技術研究所(現NIMS)に入所。2002年博士(工学〈筑波大〉)。18年より現職。

日刊工業新聞2021年8月30日

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