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量子コンピューター実用化へアーリーアダプターを惹きつけろ。富士通の展望

量子コンピューターの実用化に向けて、ITベンダー各社は新技術に敏感なアーリーアダプター(初期採用層)の獲得にしのぎを削っている。使うと作るが同時進行の中では、将来の用途を見据えていろいろと「試す」ことが不可欠。ベンダー各社はユーザーをどう惹きつけるかが問われている。「真のゴールはずっと先にあり、(IBMとの比較でも)大きな差ではない」と語る富士通の佐藤信太郎量子コンピューティング研究センター長に今後の展開を聞いた。

―理化学研究所(理研)の量子コンピュータ研究センター内に開設した連携センターと、東京大学先端科学技術研究センターとの共同研究はどう関係するのでしょうか。

「現時点では二つの取り組みに関係性はない。ただ、(キーマンの)中村泰信教授は東大と理研の双方に席があり、将来はどうなるかは分からない。そこは、当社が何か言える立場でもない」

―理研との取り組みでハードウエアは1000量子ビット級を目標に掲げる意味とは。

「目指すは、量子ビットに生じる誤りを自動補正するエラー訂正技術を実装したゲート型量子コンピューターだ。量子ビットに生じる誤り(エラー)数が少なければ、ビット数は少なくてよい。逆に言えばエラーが多いと、たくさんの量子ビットが必要。1000量子ビットは一つの目安だ」

―オランダのデルフト工科大学との共同研究の位置付けは。

「デルフト工科大は欧州では量子研究の中心的な存在で、我々は世界的に有名なロナルド・ハンソン教授と組んでいる。スピン量子ビットの研究で足場を築き、欧州で協力関係を広げたい」

―スピン量子ビットとは。

「スピン量子ビットは1マイクロ―10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)と小さく、大規模化に向いている。冷却技術も4ケルビン程度でよく、その分、冷却棟が小さくなる。さらに光で量子間ビットをつなぐため、ノイズの影響も受けにくい。将来的には超電導の他方式と組み合わせて使うかもしれない」

―量子商戦の前哨戦として、組み合わせ最適化問題を高速に解く新技術「デジタルアニーラ」が堅調ですね。

「組み合わせ最適化問題を解くにはデジタルアニーラに優位性がある。すでに材料開発や物流の最適化などでユーザー企業と接点を持ち、アプリケーション(応用ソフト)の実証実験などを行っている。何よりもユーザーのニーズを捕まえることが重要。デジタルアニーラで獲得した案件は将来の量子ゲートの顧客候補につながると思っている」

佐藤信太郎 量子コンピューティング研究センター長

記者の目/理研とのタッグ生かせ

足元の“前哨戦”をデジタルアニーラで戦う一方で、理研との連携センターを中心に“本戦”に挑む。富士通が描く技術戦略は順当とも言えるが、一筋縄ではいかない。量子商戦で存在感を示すには、テストベッド(検証環境)を含めて、何らかの実機を持つことが必要になる。理研とのタッグをどう生かすかがカギとなる。(編集委員・斉藤実)

日刊工業新聞2021年8月27日

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